株しかない 阿部修平 幻冬舎

著者紹介

阿部修平さん スパークス・グループ株式会社 代表取締役社長

1954年札幌生まれ、78年上智大学経済学部卒業。80年に米ボストンのバブソンカレッジでMBA取得、81年に野村総合研究所の企業調査アナリストとしてキャリアスタート。85年には独立、アベ・キャピタル・リサーチを設立。ジョージ・ソロスから1億ドルの運用を任される。89年に帰国後スパークス投資顧問設立、2001年に上場。

本書は2015年1月に書かれています。

目次

  • はじめに
  • 第1章 デフレ環境下で強靭に鍛えられた日本企業
  • 第2章 日本経済はデフレのスーパーサイクルから解放された
  • 第3章 日本株投資に一点の曇りなし
  • 第4章 ソロスに学んだ、株という恐るべき「知的兵器」
  • 第5章 「富のブレイクスルー」チャンスをつかむ原理原則
  • 第6章 五輪イヤー2020年に日経平均は4万円を超える
  • 巻末付録
  • おわりに

全体のあらまし

  • 「はじめに」で阿部さんの株式に対する熱い思い
  • 第1章から第3章は日本株はこれから明るい!との説が展開されています。
  • 第4章はかつて阿部さんが運用を担当なさったアメリカの伝説のヘッジファンドマネジャー、ジョージソロスとの出会いの紹介。
  • 第5章は株式を買うにあたっての考え方等が整理されています。
  • 第6章は再び日本株の今後が力説されています。
  • 巻末付録はバリュー投資家の大家のベンジャミン・グレアムの手法紹介、成長株投資の大家のフィリップ・フィッシャーの手法が紹介されています。
  • そして「おわりに」で締めくくっています。

 強く印象を受けた文章や感想

「はじめに」の冒頭に「株は一度きりの人生を自分の力で大きく変えることができる、最強の兵器である」と出てきて、日本には依然として、「貯蓄が最善の資産管理である」という概念が強くあり、これから抜け出せない人は「富のブレイクスルー」は訪れない。としています。 投資の基本を学ぼうとせず、ただ、お金をためているだけでは豊かになる機会を失っていると同時に今の生活も危ういと考えているようです。

これは日本が既にデフレの時代を終え、今後は自ら考え投資を行わないとどんどん自分の富がインフレで価値が下がるリスクがあり、一生余裕ある生活は行えないと警鐘を鳴らしています。

第1章は日本の企業は長いデフレ時代にコスト削減、負債の削減等を積極的に行い、健全な体質になっていることが強調されています。 例えば日本企業は1995年に565兆円の借金を抱えていたが、2005年には338兆円まで減少ととてつもない努力を続けてきていて、 1株利益も成長が続き過去最高を更新中なのが現在です。

こうした企業努力にアベノミクスによる異次元緩和の追い風でインフレが高まってくることが予想されるのでいよいよ日本株の時代が到来すると書いてあります。

第2章で印象的だったのが

  • 長期投資でハイリターンを目指す の項目で1900年から2000年の100年間の超長期のリターンをみてみると、インフレを考慮した実質年率リターンは
  • 米国のインフレ率が3.2% 名目株式リターンが10.1%
  • 日本のインフレ率が7.6% 名目株式リターンが12.5%
  • ドイツのインフレ率が5.1% 名目株式リターンが9.7%

これは、債券投資だとインフレ率以下のリターンしか上がらないことが多いのに対して非常に良い数字で、題名の「株しかない」につながってます。

アベノミクスでインフレ期待が高まればやはり「株しかない」ということになるそうです。

その他インフレになぜなるのか、円安になりそうだなど経済状況が書かれています。

第3章も日本株推奨で、政策(NISA導入、異次元緩和、GPIF改革)を評価し、外国人も今後注目してくるとみているようです。

最後に眠っている個人投資家の動きが活発になれば更に活性化すると読んでいます。

特にこの章で気になったのが企業側に関する記述です。

ROEが資本コストを下回るようでは株主を軽視しているとしています。資本コスト自体は無リスク利子率+(企業のベータ値)×リスクプレミアム

無リスク利子率とは国債のような元本が安全な投資資産の利子率で、企業ベータ値とはその企業固有の年間の上下動幅(リスク)の値で、リスクプレミアムとは期待される収益率とでも言え、計算方法によってかなり変化するのですが、一言でいうと、「リスクを取って株式に投資をして儲かる期待値」とでもいう数値です。

ただ、今までの日本企業はこの株主の期待値以下のROEしか出せておらず、軽視の姿勢だったのがやや変わってきているとしています。

第4章ではジョージ・ソロスとの出会いが書かれていますが、1980年代の日本はまだPERとかPBRといった投資尺度が普及しておらず、企業業績と株価は関係があまりないと考えられていたようです。そこで、阿部さんは含み資産に着目したレポートを作成して有名な投資家に送り、ジョージ・ソロスが目をとめてアドバイザーに就任させて1億ドルの運用を任せるに至ったそうで、その後日本のバブル景気に乗って結果も大いにあげたそうです。

この章で一番印象的なのが「投資してから調査せよ」で、これはソロス氏の口癖だったそうです。事前の調査をいくら行っても渦中にいるかいないかで大きく違うとのことです。これは私がとても実感することで、証券営業で株式の売買をお客様に勧める立場でありますが、数日、もしくは数週間相場から離れたり、株式営業を行わなかったりすると感覚が狂って中々案内を踏み出せない時がよくありました。

また、自分でも常に投資をフルに投資するか、一部だけを投資するかはともかく、続けておかないといけないと思ってます。完全に全てを売却してしまうと、興味がなくなり、肝心の時に動けないし気づけない、結果として皆が騒いできた終盤に高い値段で乗って大損する結果になると思われます。

第5章はこの本の一番投資家にとって参考になる章ではないかと思います。

株式投資はギャンブルでないこと、投機と投資の違いについて詳しく書いてあり、信念として、「市場は間違える」として、この過度の楽観や悲観が投資チャンスにつながると書いてます。

また、自分の仮説を出した場合は信じて投資を続ける大切さを持つ一方で、頑固になりすぎず、自分の仮説が間違っていないかも常に検証する姿勢を持つことや、市場参加者が乗ってくる期待(カタリスト)の想定を行うこと等投資に対しての自分自身の哲学を持つことの重要性を説いています。

また、投資に当たっては企業価値を算定することが重要ですが、価値を図るための柱を3本紹介しています。

  1. 経営者
  2. ビジネスモデル
  3. 市場(主に市場規模とその成長性)

で、詳しく書かれています。

日本で代表的な株式がファーストリテイリングとソフトバンクGであるとも紹介されています。

第5章は日経平均が2020年に4万円を目指すと書き、根拠としてROEの上昇や低いPBRなどが挙げられています。

想のまとめ

「株は一度きりの人生を自分の力で大きく変えることができる、最強の「兵器である」はやっぱりそうか!と私も強く感じました。そして、やはり企業の成長に長期で賭けるのが株式投資であり、企業の成長性や経営者の顔や発言を見て投資するべきか、撤退するべきかを考えながら進むのがやはり良いのだなと再度考えた次第です。

本書には具体的にこれを買えば儲かるとか、この銘柄がいいとかは書いてませんが、株式と向き合う考え方をまとめた本で、今後下落局面とかが来た時に読むと尚実感できるかもしれません。

なにせ、世界を揺るがしたイングランド銀行に打ち勝った男であるジョージ・ソロスに認められた数少ない人です。

経営されるスパークスももっと面白い投資信託や、今世の中に無い新しい投資の手法などをどんどん開発してくれることにも期待したいなぁと感じる一冊でした。

※このブログでは全体の一部しか紹介出来てません。私の感想もかなり入ってます。 もし、テーマや内容に興味を持たれたら本書を購入の上ご確認ください。