その投信・保険本当に必要?

2019年7月13日 日経新聞https://www.nikkei.com/article/DGKKZO47275430S9A710C1PPD000/

記事にあった相談内容は以下の通りです

500万円を定期預金にしようと銀行に行ったら、もう一度来店してほしいと言われた。定期預金証書の受け取りかと思って訪ねると別室に案内され、保険の勧誘を受けた。不思議に思ったが、差し出された書類に署名・押印した。帰宅後に資料を見た家族から外貨建て終身保険に加入したことになっていると指摘され驚いた。(70代男性) 「定期預金を娘と孫に平等に残したい」と銀行員に相談したところ、「生命保険に入ればいい」と言われた。定期預金を解約して生命保険を数件契約した。その後お金が必要になったので、解約したいと言ったら「40万円ほど損する」と言われた。(70代女性)

  1. 保険商品の内容を複数回にわたって説明するルールを設けている金融機関は78%だった一方、実施率は61%にとどまった。69%の金融機関で親族の同席を求めるルールがあるのに、実行に移されている割合も30%と低調だった
  2. 過大な販売目標を課していることが、不適切な販売が広がった理由の一つとみられる

相談内容は2つあって、一つ目が70代男性の500万円の定期預金をしようと思って銀行に行くと外貨建て終身保険に契約となっていたケース

二つ目が70代女性の定期預金を孫と娘に平等に残したいと銀行に相談して生命保険に加入、あとでお金が必要になって解約しようとしたら40万円ほど損するといわれたケースです。

二つから見えてくるのが以下の問題点です

  1. 金融機関側で外貨建て終身保険であることの説明が殆んどなかった可能性が高い、商品名や内容の理解がないということは手数料の説明なども殆ど無かったのではないか
  2. 70代の男性も聞く気が無かったか聞いてもわからなかったか、言われるがままにサインしていた可能性が高い
  3. 娘や孫など特定の人に資産を引き継ぐ際に保険の受取人を指定する機能は有効、ただ、途中解約時の損失についてや、あとでお金が必要になってしまうほどの資金を大量に入れてしまう事に対してのヒアリングがなかったのか

です。

私も金融機関の営業なので問題点を書いてみました

70代男性

  1. 金融商品を購入したことがある顧客かどうか確認していたか
  2. 500万円の定期預金をする意向を確認していたか
  3. 商品性やリスクを理解しようとする態度、人であったのかを確認しながら話をしていたのか

70代女性

  1. 娘と孫に平等に残したい意向以外は確認していたか
  2. 資産全体がいくらあって、その中で残したい資産の規模が過大かどうか確認していたか
  3. 運用経験があるか、金融商品への理解がある顧客か会話の中で確認していたか

私が記事内のような人と出会った場合、何を一番重視するかというと、「過去の経験」のヒアリングと「意向確認」「使う予定があるお金かどうか」の3つです。

70代と記事内に書いてあると、弱そうな高齢者に業者が意味もない金融商品を売りつけたかの様に書きやすいですが、実際金融商品に明るい70代も多いです。そのような人の場合、保険商品を無理解で定期預金の代わりに購入するケースは無く、恐らく外貨建て終身保険は契約とならず、当初の意向通りであれば定期預金になるか、個人向け国債の購入程度で終わっていたと思われます。

70代女性の場合はもう少し話が複雑で、当初の「娘と孫に平等に残したい」という意向を相続時に実現させる方法が「遺言」と「保険」、「贈与」が有力な方法で、保険契約を結ぶこと自体が悪いわけではありません

ただ、問題は、途中で契約した保険を解約しないといけない事態が発生していることと、途中で解約する際に損失が出ることに対する説明が不十分だった点です。

渡すつもりだったが大きな出費が出てしまった不慮の事故の場合はやむをえませんが、事前にこれらを相続まで使うのか、残せるのかをよく確認し、保険で全て置いておくべきなのかを検討したうえで提案していればこのような事例は発生してなかったと思われます

運用に関して言うと、保険であれ、株式や債券、投資信託であれ、時間が長く取れたほうが利益が出る可能性が高まります。40万円の損失が全体の何パーセントかは記事には書いてませんが、途中解約時に解約控除や運用損が出ることの説明も無かったと思われます。

金融機関側の説明ルールについて

正直、説明ルールを全て実行したから良いのかには疑問を持っています。

複数回説明とありますが、複雑な商品の仕組みは何回聞いてもわからないし、そもそも個人投資家に複雑な説明を要する金融商品はあまり必要でないケースが多いです。

説明回数が大切なのではなく、「顧客ニーズに合っているか?」が最も大切なのですが、縛る監督官庁も、金融機関も抜けており、ただ、複数回話せば良いというものではないと思います。

また、ノルマが問題を引き起こしたとありますが、企業である以上営業成績目標が無い会社は世の中に存在しません。営業目標のせいにするのも危ない兆候です。ノルマがないなら問題が起こらないということではなく、顧客ニーズと商品が合っているかが最も大切で、この点が抜け落ちてます。

顧客ニーズに合わない商品を販売しないといけないくらい大きなノルマを課さないといけない状態であるなら、企業はもっと経費や人件費を削減してスリム化する必要があると思いますが、不思議なことに新聞にこれを指摘する意見は全く出てきません。

解決策としては企業側、個人側双方にあり、以下に書いておきます

企業側

  1. 営業現場の意見を再度聞き、営業成績目標と現実の乖離を確認
  2. 顧客に役に立つ金融商品と設計を根本から見直す
  3. その中で企業として過大な経費や人件費がかかっているなら従業員を説得してスリム化する努力を行う
  4. 金融は銀行、証券、保険、損保と分野が分かれており、他分野のことはよくわからないので、横断的な組織を作り、成績は案分できるようなチームを作る努力を行う

顧客側

  1. わからない商品については契約、購入をしない
  2. なぜこの商品を私に提案するのかをよく聞く
  3. リスクは何か、契約後に考えられるデメリットは何かを聞く
  4. 必ずメモを取り、営業担当者と確認を取りながら話を進める

例え家族が説明を求めてきても、ニーズに合っていて、商品性が問題なければ家族は理解するでしょうし、問題は発生しません。

古くて新しい言葉ですが、「顧客ニーズ」とは何か、役に立つ金融機関、サービスとは何か、改めて業界全体として考え、このような記事が出ないようにしないといけないと感じました