ちょっと古い話ですが、ボリビアはハイパーインフレに悩んでいて、それを克服した国です。
ボリビアの2018年のデータ
- 人口約1100万人
- GDP約41億ドル
- 一人当たりGDP約3700ドル
- 失業率4%
- インフレ率2.3%
- 通貨ボリビアーノ 約16〜17円
今は外貨との交換には強い規制がかかり、自由にFXはできない国です。以前に100年債の特集をして、調べていたらアルゼンチンの100年債の隣にボリビアの100年債もあったので、おや?と思って興味を持ったら過去にとてつもないハイパーインフレを経験していたのでなぜ起こって、どうやって沈静化したかを調べてみました。
ハイパーインフレへの過程
- まず、芽は1970年代の軍事政権にあります、ボリビアは資源が豊富で、錫、亜鉛、金、銀などの鉱物資源や石油が産出されます。1971年から1978年にかけて大統領だったバンセル大統領がオイルショックで資源価格が高騰し、信用力が高まったのを利用して対外債務を膨らませて石油関連産業の育成を図ります。ただ、これは殆どが失敗したようで対外債務が残ってしまいました。
- また、自国の経済力が低下する中で対ドル固定レートを引いていましたが過大な評価で、国外への資本逃避がおこってしまいました。
- 1978年にバンセル大統領が退いた後の軍事政権は財政のために麻薬取引を始め、世界からの非難を浴びて国際的な信用を失い、融資が途絶しました。しかし、対外債務支払いは続いていました。
- 加えて、天然ガスをアルゼンチンに輸出していましたが、アルゼンチンからの代金が不払いになってしまい、収入も減ってしまいました。
シレス・スアソ政権の失敗
1982年に民主的なシレス・スアソ政権が誕生、ただ、軍事政権の負の遺産も引き継ぎました。
- 重い対外債務
- GDP比で10%を超える対外債務
- 月間20%のインフレ率
- 輸出の停滞
これらを克服するために「非ドル化政策」を打ち出しました、自国通貨を国民に使用させ、外貨を国家管理にし、為替の安定を図り、輸出を活性化しようとしました。
具体的には
- 為替の固定レート化
- ドル預金禁止
- 外貨建経済取引の禁止
です、また、その他政策として
- 公共料金、食料品価格の引き上げ
- 最低賃金の物価スライド制導入
も取り入れ、自国通貨を安定させ、賃金の上昇を図りました。
しかし、実際に信用力の無い自国通貨を国民は使用せず、政府の意図と反対の現象が起こりました
- 不正輸出の拡大
- それに伴い、米ドル資産が海外に流出
- 固定レートが実勢の闇レートと乖離する
- 公的輸出は公定レートなため、実勢との乖離が大きくなり公共部門の石油公社と鉱山公社の輸出が不利になり輸出が停滞して税収減少
- 自国民の資本逃避
- 結果として自国通貨がどんどん信用を失い、国民は米ドルを闇で手に入れ使用、蓄える政策の目的と逆の現象が起こっていった。
国民は米ドルの使用は禁止されていたので自国通貨建で取引価格を表示していましたが全て米ドルに連動した価格で事実上米ドルが支配する状況になっていました。
また、物価がどんどん上昇する中で、最低賃金の物価スライド制は生きていたので自国通貨建賃金は上昇していました、これもまた、インフレの要因になってしまいました。インフレスパイラルです。
輸出の停滞により、財政赤字は拡大しました。
1981年に対GDP比で7.5%なのが、1982年に14.2%、1983年に17.9%、1984年に26.5%とどんどん拡大し、補填するために政府は中央銀行に国債を引き受けさせる財政ファイナンスを行い、結果自国通貨が大量に国内に供給され、さらにインフレ率の増加、財政赤字の拡大と手がつけられなくなりました。
各年12月時点の消費者物価の上昇率を比べると、1981年に年率25%だったのが1982年に296%、1983年に328%、1984年に2177%、1985年に8170%と、どんどんインフレ率が拡大しています。
1年平均の物価の変動の幅はというと、1981年は約3割、1982年は約2.2倍、1983年は更に約3倍、1984年は更に約13倍、1985年は約120倍で、1980年から考えると、1×1.3×2.2×3×13×120=13384倍となります、1円が13384円になったのと同じことなので国民生活は一気に悪化、政権の崩壊を招きます。
インフレ抑制政策
1985年に大統領となったパス・エステンソロ大統領は1986年から本格的にインフレ抑制政策に動きます。
内容は
- 為替レートを実勢レートに変え、外貨取引を国民に自由化させる
- 公共料金引き上げ
- 石油公社への課税強化
- 公務員の賃金引き上げ停止
- 賃金物価スライド制廃止、解雇を自由化
- 物価統制廃止
- 銀行への金利規制廃止、自由化
- 鉱山公社の合理化、3万人の職員を7000人に削減
- 10%の付加価値税導入
と、かなり手荒なことを行います、また、対外債務についても対策を行います、対外債務は国際機関からに借り入れが約3割、2国間借り入れが約5割、民間銀行からの借り入れは約2割でした。
対応はそれぞれ違い、国際機関へは返済を優先させ、2国間では交渉により債務免除や支払猶予などを行います。(パリクラブ合意)、民間銀行へは支払いを止めて最終的に銀行保有の国債を額面の1割で買い上げる事実上の削減を行いました。
これらの手段でやっとインフレがおさまりました。
ボリビアからの教訓と日本
日本の財政赤字が大変でハイパーインフレになるとか言う人もいます、では、本当になるのかな?と考えるとボリビアと日本ではかなり状況が違います。
共通点は財政赤字です、ただし、日本の財政赤字はGDP比で3%程度です、絶対額は大きいですが、ボリビアとは違います。また、外国へはむしろ貸している国です、実は世界最大の債権国です、日本国内の低迷も原因ですが、外国に企業が出て外国の資産を多く保有しているので日本国としてみると外国に大きな資産を保有しているわけです。
と、なると日本は
- 国内では政府の大幅な債務超過、ただ、円建ての借入が大半
- 外国への返済原資となる外貨準備高は1.2兆ドルと世界2位の保有高
- 世界最大の債権国
なので信用力が高く、今すぐに円が崩れてハイパーインフレになるとは言えません。

ただ、円建てで国内借入とはいえ、日本政府の国債の残高は気になります、今はデフレの世の中ですが、雪だるま式に増えているので外貨準備高や対外債権、国内の個人金融資産などを超えてくるようになると国の信用力が低下するリスクは確かにあります。
仮にインフレが酷くなったとして国として撮る政策はボリビアを参照すると以下の通りです。
- 消費税など税率の大幅な上げ
- 公共料金引き上げ
- 国内向け債務の大幅カット
です、ボリビアは債務は世界機関に対しては債務返済を履行し、外国からの直接の借入は減免を訴え、国内に対しては9割カットを行いました。つまり、何かあった時に助けてくれるのが外国になるので外国へは極力払うように動いてそのツケは国民に負わせるとなります。
では個人の対策は?
日本人が日本政府の政策に逆らえないのでできる手は限られますが、考えられるのが以下の通りです。
- 外国の資産を保有する
- 金を保有する
外国の資産は外国株、外国債券です、ドル預金は国内銀行や国内の外銀の場合はどうなるかわかりません、直接外国の株式を保有するか、外国の発行体の外債がいいと思います、国内の発行体ならどうとでもなるリスクがあります。
今すぐ大きな資産がない場合は外国株式のインデックス積立でも一定の効果はあると思います。
ただ、外貨といっても日本より上位の通貨はユーロと米ドルしかないので、できれば基軸通貨の米ドルが良いと思います。短期の価値の変動は無視して、備えとして保有する考え方です。
また、これも価格変動が大きいですが、金の現物購入です。金利も何も生まないので大きく持つ必要は無いですが、何かあったら持っていける資産です。
長くなりましたが、国家はこのように政策が間違えることは往々にあります、その時にツケを払うのは国民です、1人の国民として将来に備えるのも必要だと思います。