ハイブリッド債、過熱 2019年11月30日日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGKKZO52786660Z21C19A1EN2000/
- 社債でありながら信用評価上の資本性を備える「ハイブリッド債」が人気
- 普通社債より高めの利回りを得られる
- 2019年の新規発行額は過去最高を更新
- 償還時期の先送りなどのリスクを踏まえれば、値付けが割高だと懸念する声も
社債とは?
まず、社債の仕組みから話します。
社債とは「企業が発行した借金の証書」です。
仮に発行時に額面金額貸した人は満期までの間にあらかじめ約束された金利で利息(クーポン)を受け取ります。
満期が来たら額面金額を借りた企業から返済してもらい契約終了です。
会社が発行するのが「社」債で国が発行するのが「国」債です。
ハイブリッド債とは?
新聞にはこのように書いています。
ハイブリッド債は年限が60年程度と超長期にわたる劣後債で、発行から一定期間がたつと会社側の都合で早期償還できる仕組みを持つ。調達額の一部を格付け会社が「株式と同等の資本性がある」と認めるため、発行企業の格付けの悪化を防ぐ効果がある。その分、金利は高めだ。
ポイントを細かく分けます。
- 年限が60年程度と超長期にわたる劣後債
- 会社側の都合で早期償還できる仕組みを持つ
- 調達額の一部を格付け会社が「株式と同等の資本性がある」と認める
- その分、金利は高め
まず、そもそもハイブリッドとは何と何のハイブリッドかと言うと、「資本」と「債務」のハイブリッドです。
教科書上では「資本」とは株式等の発行により得られる会社の自己資金で返済の必要はありません。
一方で「債務」はあくまで借金で、利息の支払いと元本の返済義務があります。
なので、ハイブリッド債は性質上あくまで債務の一種であり、利息の支払いや返済される事が前提には変わりありません。
が、発行する際に色々な条件を債務に発行側はつけられます、例えば、
- 満期を60年等超長期にするとか無期限にする
- 利息を会社の判断で支払わない事が出来るようにする
- また、利息の支払い再開後も止めていた期間に払わなかった利息をまとめて再開時に支払うのか、それとも止めていた時期の利息は諦めてもらうとか
色々と企業側にとって有利になるような設計であればあるほど格付機関がその度合いに応じて株主資本と同じとする割合を決めています。
大和投信委託 ハイブリッド債解説https://www.daiwa-am.co.jp/guide/term/ha/hybrid_1.html
- 法的弁済順位とは会社が倒産した際には精算して債務者に返済をするのですがこの時に弁済順位の上からお金を返していきます
- 普通社債→劣後債→優先証券→普通株式の順番です
- 株は倒産すると紙クズになると言われてますが、実際にはクズではないです。ただ、お金が無くて倒産した会社の資産が残っているはずもなく、清算して上から返すので株主には残ってないという意味です
- 劣後債以下もかなりそうなる可能性は高いです。ただ、倒産が無ければ条件にもよりますが普通にお金を返してもらえます
- 弁済順位が低い関係から普通社債より劣後債や優先証券は格付が同じ会社でありながら低くなります
- よって格付が低い=高い金利を付ける
- でも結局は同じ会社なので倒産しなければ劣後債や優先証券投資家は普通社債投資家より高い金利収入を受け取れます
どこまで資本に認めるか?
これは格付機関によって違います。
2社の例をあげておきます。
ムーディーズ
世界最大手の格付機関ムーディーズのガイドラインです。
上記の表では同じ劣後債でも資本に認めないモノもあります。例えば#1は劣後債ですがA=0%になります。一方でほとんど同じ条件の#4と#5はB=25%分は資本扱いです。何が違うかというと満期までの残り期間が違います、30年超えているとBになっています。
R &I
日系大手格付機関のR&Iです
資本にどの程度組み入れるかは格付機関によって変わります。なので各社基準が違うので同じハイブリッド債券を発行しても負債と資本のバランスが変わるので格付にも影響します。よって各社により同じ会社でも格付が変わるのは当然です。
ここは余り投資家は気にしすぎることは無いです。あくまで貸す相手の会社が健全かどうかが重要です。
ただし、経営不安に陥った場合、どの様な条項が債券に付与されているかはしっかり聞いたほうがいいです。価格に変動や売却できるかどうかに影響がでます。
償還時期の先送りとは?
新聞には以下の様にありました。
ほとんどの機関投資家は早期償還を前提として投資している。「もし、発行企業が早期償還を見送ればハイブリッド債の相場は冷え込む」(MU投資顧問の中村氏)との指摘が聞かれる。
世界景気の緩やかな拡大は2~3年後までに終焉(しゅうえん)を迎えている可能性がある。その際に調達環境が大きく悪化していれば、発行企業が早期償還に応じないとも限らない。ハイブリッド債をカードにした「ババ抜き」の状態に転じてもおかしくない。
- ほとんどの機関投資家は早期償還前提の投資
- 先送り=相場冷え込む
- 早期償還に応じないババ抜きになるリスクがある
この箇所についてはやや違和感を感じますがまずは早期償還について解説します。
早期償還とは?
ハイブリッド債券は格付機関の資本組入比率を高く撮りたい目的で満期が30年以上のものが多いです。ただ、投資家からすれば途中で売却する場合は債券の価格変動があるためできればしっかりと額面で発行体から元本を返してもらいたい気持ちがあります。
これに応えるため、ハイブリッド債券は満期とは別に発行後5年とか10年とかの時期に発行体が実施するかを判断できる早期償還時期を設けてハイブリッド債券を発行するのが一般的です。
例えば満期が60年であっても早期償還を10年とかにしておくと発行体の判断にはなりますが10年で償還され、お金が戻って来ます。これを業界では「コール」と呼び償還されることを「コールがかかる」と言ったりします。
早期償還はいつするの?
新聞記事で違和感を感じたところはここです。
というのも、本来早期償還は「必ずかかるもの」ではなくて「この期限以降満期前に償還される可能性が出る」ものです。
発行体が決める権限を持っています。
ただ、今まで、特に日本では事実上の満期扱いで早期償還は最初に来る早期償還日がお金の戻る日扱いでした。
海外もかつてはそうだったのですが、欧米ではかからない物も増えてきました。
これは発行体側が経済合理性に基づいて動く傾向が強まってきたからなのと投資家側も受け入れる気持ちになってきたことと考えられます。
確かに最初のコール日(早期償還日)に償還がかからないと資金計画が変わります。ただ、本来の余裕資金運用であれば条件が良ければ保有、悪ければコール日前に売却すればいいし、保有期間に受け取った利息考えれば投資資金を下回る例は余り見受けられません。
むしろ早期償還後に利息が増加するような条件をつけている様にハイブリッド債もあり、引き続き高い利息収入を受け取れるなら保有した方がいい場合あります。
なので文中の「ババ抜き」では無いです。
まとめ
国内でもハイブリッド債券が多く出はじめたのは好感すべき現象だと思います。
低金利時代に投資家は今までより高い利息を受け取れる、発行体側も資本に格付機関が一定割合を入れてもらえるなら資本と負債のバランスをとりながら円滑な資金調達ができます。
投資する側からは、経営状態が悪くなった場合に利息の支払いや元金の返済の条件がどうなっているかを理解した上で受け入れられるリスクなら投資して良いと思います。
その他の金融商品で気をつけるものはハイブリッド債券を集めた投資信託だと考えます。
満期が投資信託にはない場合が多いので、金利や景気の動向が価格に普通社債より影響を大きく受けます。
その際に怖くなって投げ出さない事が必要です。
元から価格変動がどの位の幅までなら受け入れられるか、例え想定より下落しても追加で購入したり、保有を継続できると自分で思える金額なのかをよく検討してから投資をする方がいいと思います。
株式の投資信託と違い、債券の投資信託は元々債券は満期まで保有すれば損をしない設計のため投資信託でも同じ様に考えがちです。
元は同じでも、商品設計によっては動きが変わる事を注意した方が良いと考えます。