2020年12月28日号 増田陽亮
債券・金利
週末の米10年国債利回りは0.926%と前週の0.945%とほぼ動きがありませんでした。
ニュースとしては12月21日に米国で約9000億ドルの追加経済対策が議会を通過、一安心と思ったら23日になってトランプ大統領が土壇場で法案に署名せず、議会に突き返しました。失業給付の金額が小さいと言うのが理由です。
これは上院選挙が近いためのパフォーマンスと思われます。ただ、マーケットは反応しませんでした。
クリスマス休暇を控えてトレードを行う参加者も減っているため動きにくいのかもしれません。
今回が年内最後の為、今年1年を振り返ります。
まず、先進国、新興国を問わず低金利化が大いに進んだ1年でした。
米国も政策金利がゼロ金利水準になり、2年国債は利回りが9割以上小さくなり、10年国債でも約半分、30年国債でも3割程度低下しました。
また、世界全体で約14兆ドル(約1500兆円)の財政刺激策が実施され、財源はほぼ全てが国債発行によるもので、中央銀行が実質的に買い取る、事実上の政府債務の中央銀行引受が破壊的に進んだ1年でした。
更に、企業の社債も中央銀行が買い取る政策を進め、米バンク・オブ・アメリカによると、世界の国、企業の総債務は12月で約277兆米ドル(約3京円)に達するそうです。
米国もここから10年間で約8兆ドルの公共支出を行い、対しての増税は全て実施しても約4兆ドルで不足です。
日本や欧州も対策を強化する事は十分ありえ、債務は暫く膨らみ続けると思われます。
一方で、インフレになるためには景気が回復し、緩和によって出された資金が循環する事が必要なこと、国債の利回りは中央銀行が買い入れ策の強化である程度コントロールできること等から今すぐ債券は全て売りと考えない方が良いのも事実です。
来年も今年と同様でマーケット比較で安全性と収益性のバランスが取れた債券を探し、丁寧に拾っていくことが債券投資の成功に結び付く考えに変わりはありません。
為替
米ドルは1週間で29銭しか動きが無く、ほぼ同じ水準で推移しています。
新興国では24日にトルコ中央銀行が追加利上げを実施、1週間のレポ金利を17%にしました。
11月のインフレ率が14%と高水準の為、インフレを抑え込むために実施しました。
今までエルドアン大統領はインフレを抑えるためには利下げが有効だと経済で一般的に言われている
理論と逆を言い、利上げを主張する財務閣僚や中央銀行総裁を抑えていましたが、ここにきてようやく方針を転換しました。
今後も経常収支赤字の問題があるためすぐに通貨が上昇するとは言えませんが、一方的に弱くなることには歯止めがかかったとは言えそうです。
この1年の振り返りですが、先進国通貨の動きは結果として大きくなかった1年でした。米ドル安と言われ続けていますが108円台スタートが103円台、ユーロも121円台が126円台、豪ドルも76円台が78円台です、3月のコロナショックを除けば穏やかな動きに終始しています。
新興国は厳しく、特にブラジルとトルコが25%程度通貨が減価する大きな下落です。
コロナが経済を直撃したと言えます、来年はある程度回復する可能性もありますが、コロナ対応は続くため楽観視は出来ないと考えております。
引き続き通貨戦略は先進国通貨を中心に考える事が有効だと考えております。
株式
掲載している日米英中の代表的株価指数ですが、1週間で全て1%以内変動幅で、動きの乏しい1週間でした。
23日の米国の経済対策のトランプ大統領の署名否認、24日のアリババへ中国当局が独占禁止法違反で捜査を実施、アリババ株が1日で13%下落と嫌なクリスマスプレゼントがありましたが全体としては小動きでした。
今後トランプ大統領が何をするかは予測不能ですが、バイデン大統領就任が1月20日なので出来ることは限られていると思われます。また、アリババについては会社分割や上場廃止等色々な憶測が出て、中国リスクの高まりが再び盛り上がりそうです。
中国共産党の政治は私にはわかりませんが、会社分割を実施するとしてもかなり先になると思われること、中国にとってアリババは必要不可欠なインフラになっているため、極端なことはできないと考えるのが普通かと思います。
一方でリストにも上げているテンセントですが、こちらはアリババ傘下のアントが上場を当局に上場を止められた際にすかさず「当局と協力して事業を推進する」とわざわざ声明を発表しており、当局の印象は良いと思われます。
予想困難なかく乱要因は今後も沢山出てきますが、企業の内容を見て、全体は気にしすぎない方が結果良いと思います。
今年の振り返りですが、この1年で世界の株式の時価総額は年初に約90兆ドル(約9300兆円)だったのが、3月の暴落で約30兆ドル減価し、その後の上昇で約40兆ドル増え、結果100兆ドル前後(約1京300兆円)と増えて終りそうです。
では、来年はというと、引き続きコロナに煽りを受ける不景気な話と金融緩和+財政支出の戦い継続で変動も大きく、しかし、上向きという所ではないかと考えます。
12月のFOMCで米国FRBのパウエル議長は株価について「金利の超低水準を考えると割高ではない」と今までの中央銀行総裁には無かった、株価はまだ上昇すると捉えられる発言をしております。
これはまだ超低金利政策と金融緩和は継続させることを示唆しており、景気と雇用の改善を引き続き支援する強い意志を内外に示す目的であったと考えられます。
逆に言うと金融緩和を終了する事が言われれるようになると、株高も一旦終了と言えます。
ただ、金融緩和終了時期は早くて2023年と言われており、2021年は特に気にしなくて良いでしょう。
その他
2020年は年初に穏やかに始まり、中国人観光客が街にあふれて、インバウンド需要と言われておりました。
しかし、新型コロナウイルスにより2月末以降一変し、特に欧米に波及してからは世界中のマーケットにインパクトを与えました。
私が考える経済的な大きな出来事はコロナをきっかけに政府の財政支出に対する歯止めが外れたことです。
今年は合計で約1500兆円の財政刺激策が実施されました、これは来年も追加支出があります。
財政規律とかプライマリーバランス、バラマキとかいう言葉は全く聞こえなくなりました。
今は危機なのでインフレにならない限り出せばよいと思いますが、実際にインフレ率が上昇してきたときに財政支出の削減や増税を時の政治家が実施できるかは疑問が残ります。
そうなった時にどうするか、ならない場合も含めて色々な想定を常に考えながら2021年も運用のフォローを継続して参りたいと考えております。
2021年もどうぞよろしくお願いいたします。