2021年3月22日週間相場メモ

債券・金利

米国債10年利回りが相変わらず上昇しており、18日には1.75%、週末も1.73%と予想より早いペースで上昇しています。

主な要因は①1.9兆米ドルの経済対策の柱の4000億米ドルの給付金の配布効果(一人当たり1400米ドル)

②直近のインフレ率の上昇。

ですが、今回はFRBの連邦公開市場委員会(FOMC)の会議の内容が公表されたことに対する市場の反応が大きいです。

上げ続けている米国債利回りですが、日欧に対して大きく差が開きつつあるため、日欧の投資家から見ると米国債投資が魅力的に映りだしており、投資資金が米国に向かうと思われます。

将来の利回り水準自体は景気の回復やインフレ率が上昇するともう一段上がる可能性はありますが、投資資金が利回り上昇のスピードを和らげる可能性が出てきております。利回り推移が安定してくると投資しやすい環境が戻ってきます。

米国ハイイールド社債、米銀優先株式預託証券、欧州銀CoCos債券等が

引き続き運用提案商品の中心に変更ありません。

17日に米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれ、金融緩和策の継続をパウエル議長は強調しました。主な内容は、

①2023年まで現行の0金利政策を維持する事

②毎月米国債を800億米ドル、MBS(住宅担保ローン証券)400億米ドルの購入継続

③資産購入の縮小(テーパリング)の議論は行う段階ではない事を強調

と主な骨子は過去と変化ありません、市場に動揺を与えない為一言一句注意しながら読み上げています。

一方で変化した所も複数あり、これが米国債利回りに影響を与えました。具体的には、

Ⓐ2021年の米国の予想成長率を12月では4.2%だったのを6.5%に上方修正

Ⓑ2021年の年末失業率予想を12月では5%だったのを4.5%へ上方修正

Ⓒ2021年のコア・個人消費支出(PCE)価格指数(食料・エネルギーを除く)は12月に1.8%予想だったのが2.2%へ上方修正されました。

同時にコアPCE価格指数の2022年、2023年予想も公表され、それぞれ2%、2.1%と極端に高い数値ではありませんでした。

更にⒹFOMCに参加している委員の2023年に利上げを行うと予想している人数が増えました。12月は全17人中5人だったのが、今回は18人中7人と増加しました。

これらⒶⒷⒸⒹの数字の上方修正はインフレ懸念を警戒しながら利回りを上昇させてきていた債券マーケットを刺激し、1.7%台を超えてくるきっかけになりました。

また、昨年の3月に1年間の時限措置として導入されている大手銀行の補完的レバレッジ比率(SLR)規制の緩和措置を終了させるかどうかの議論がありましたが、当日は結論を出さずに週末の19日に期限通り3月末で緩和措置を終了させると発表があり、これも利回り上昇の材料となりました。

このSLR緩和措置とは大手銀行に対してコロナ禍で大変な中、大手銀行に対しての資本規制を一時的に緩めて企業の資金繰りを支えさせることを目的とした政策でしたが、結果として貸し出しが伸び、企業というよりも大手銀行が大きな利益を手にすることになってしまったため終了させることが妥当と言われて来ました。

ただ、一気にやめると大手銀行の資本規制が再び厳しくなるため貸し出しが減るリスクがあり、一部には延長か、漸減させる緩和措置もあるのではとの観測もありました。

しかし、計画通り終了が決定されました。

FRBがわざわざ週末に発表を持ってきたのはマーケットが休みになるので影響を減らしたかったからではないかと思われます。

では、ここ数週間続いている米国債利回りの急騰ですが、短期的に前年度比較のインフレ指標がとても大きな数値になり、再び国債市場が動揺するリスクは残りますが、

そろそろ落ち着きを見せる可能性も出てきていると考えます。

FOMCで追加策こそ出ませんでしたが金融緩和を継続するパウエル議長の姿勢が改めて鮮明であったことやコアPCE価格指数の将来予想も2023年まで2%程度の推移とFRBもここからどんどんインフレになる事は想定していないからです。

国債利回りの変動が落ち着いた動きになってくれば投資環境は更に改善すると見られます。

投資対象は今まで同様債券分野の投資商品の中核はハイイールド、米銀優先株式預託証券、欧銀CoCos債であることに変更ありません。

為替

米国債の利回り上昇がサポートで米ドルが強い状況に変化は無く、今後も極端な円高は想定せず、やや円安気味に推移する見方に変化はありません。

今週は新興国のブラジルとトルコで大きな変化がありました。ブラジルは今後に少し期待できる動きですが、トルコはもはや投資対象として語る事が出来ない通貨になりつつあります。

米国の利回り上昇は新興国から資金が抜け、新興国の通貨の下落要因になる可能性が有ります。

その中ブラジルの中央銀行が17日に政策金利を現行の2%から0.75%引き上げ2.75%と2015年7月以来の利上げに踏み切りました。

足下インフレ率が上昇しており、1月段階で2021年のインフレ率予想が3.6%だったのを5%に上方修正、ブラジルは2.25%~5.25%がインフレ率目標で5%となると上限に近づいているので先回りして引き上げました。

市場予想は0.5%の利上げだったのでサプライズです。

今後もインフレ率が高止まりする可能性が有り、米国利回りの上昇により、新興国に向かう投資資金が米国に向かうと通貨の下落も予想されるので防衛とインフレ抑制の目的で今後も利上げを継続する方針を打ち出しております。

現在の予想は2021年末4.5%、2022年末5.5%で、久しぶりにブラジルに金利が復活する予想です。

もちろん、インフレ率が高い国の通貨は下落する傾向があるので金利が高い事が即投資して利益が出るとは言えません。

ただ、金利も低く、通貨も下落していた所に金利が復活する事は歓迎して良いと思います。

トルコですが、大きな動きがありました。18日に2%政策金利を引き上げ、19%とし、引き続きインフレ抑制を行う姿勢を中央銀行が鮮明にし、週末のリラ相場が今後の期待感で上昇し、対円でも15円を回復して終わっています。

しかし、20日にエルドアン大統領が11月に任命したばかりのアーバル中央銀行総裁を解任したというニュースが入ってきました。

アーバル総裁は就任以来の短期間で政策金利を合計8.75%引き上げ、通貨防衛とインフレ抑制に積極的に取り組み、市場の評価も上がっている途中でした。しかし、以前より利下げこそインフレを抑制すると信じ込んでいる経済学の逆を行くエルドアン大統領は利上げを主張する中央銀行総裁を次々と解任してきており、今回もある程度容認してきたものの癇癪をおこしたものと思われます。

もはや今後どのような人が中央銀行総裁になっても簡単に大統領に切り捨てられるようでは安心して投資を行えません。

今後投資を行うのはもちろん、保有しているリラについても見直しを検討する段階だと考えます。

株式

週末の米国債10年利回りは1.73%と直近で一番高い水準になり、前号で懸念される水準としたラインを早々に突破してきました。

しかし、今回はここ数週間の株価の動きと比べると比較的落ち着いております。国債の利回り水準は引き続き高いものの時間が経てば相場への影響度は徐々に薄らぐと思われます。

前号でも触れましたが、懸念材料は4月以降のインフレ指標で、昨年比較でとても大きな伸びを示す数字が出ると国債金利が短期的に大きく上昇し、株価に影響が出る事です。

ただ、そのような局面は悲観しすぎずに追加購入を狙う気持ちで良いと思います。

NASDAQ銘柄のグロース株を敬遠する動きが続き、今はバリューと言われる金融や石油、サービス業が上昇してきていますが、バリュー株の割安感が薄らぎ、グロース株は下落して銘柄によっては高値より2~3割下落した銘柄が数多く出てきています。

まだ債券マーケットの悪影響が残っているので不安定なことに変わりはありませんが、そろそろグロース株の中でも狙いを定めていく時期ではないかと考えます。

目先の好材料①米国1.9兆米ドル追加景気対策成立→インフラ整備を柱とする追加景気対策の発表、成立②好調な企業決算③堅調推移する景気指標④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ。

懸念材料は①コロナ感染拡大が再び加速②米中緊張激化③米経済対策法案成立遅れ④短期的過熱感の解消の為の調整売り⑤民主党の増税政策や金融規制強化⑥米国長期金利の急騰です。

好材料①関連ですが、先日成立した1.9兆ドルの景気支援策の柱の1人当たり1400米ドル、総額4000億米ドルの支給が始まり、日本円だと40兆円にも上る資金がどの程度消費に向かい、どの程度株式市場に回るか効果が出てくるのが今週辺りからとみられます。

また、バイデン大統領はコロナ対策として5月1日までに全ての成人をワクチン対象者とするように各州に指示を出し、7月4日の独立記念日までに正常化を目指すとして対策を急ピッチで進めています。いよいよコロナ禍から脱出となると、空運株やレジャー株も回復してくるとみています。

しかし、一方伝統的企業で資産を多く保有するバリューと呼ばれる株式もここ数週間の期待感で上昇した結果株価が高い銘柄が目立ってきており、実際にコロナ禍から回復した後に更に伸びるためにはやはり売上と利益が伴わなければ株価は伸びません

となると、現在はPERが高く、国債利回りが高くなってきていることを理由に売られているネット系を中心としたグロース株が再び注目されると思われます。

GAFAMといった米国を代表する企業は依然として売上や利益の成長率は高いです。

これ以外にも個別で売上が伸び、将来が期待できる銘柄が外部環境によって下落した時はチャンスと言えます。

日本ですが、18~19日に開かれた日銀の金融政策決定会合で株式に対して大きな変更がありました。

具体的には株式のETFの買い入れで年間12兆円の上限の買い入れ枠は残すものの、原則6兆円買い付けるとした文言は削除し、買わなくても良い状態にしました。また、買い付ける対象の指数から日経平均を外し、TOPIXを主体にします。これを受けて週末の日経平均は425円の下落を見せましたが、TOPIXは3.7P上昇と対照的な動きになりました。

これは今まで日経平均は計算方法からユニクロやソフトバンク等一部の株式の影響が大きい為上昇時に実態とかい離していると批判が多かったのですが、週末は逆にユニクロのファーストリテイリングが5910円下落(約220円程度の下落要因)ソフトバンクが251円の下落(約55円程度の下落要因)と東証全体を表すTOPIXが上昇するのと逆の動きになりました。つまり、上がっている銘柄が多いのに日経平均は大幅に下落したということになります。

ただし、これはあくまでもテクニカルなことであって、長期的な株価はやはり企業業績です。

日本は足下の業績が好調であることに加えて為替が円安に推移しているので今年の業績も好調に推移すると見られます。

米国は10年国債利回りが上昇する事が株価のマイナス材料にされてしまっていますが、日本は低金利が続き、為替が円安となると米国ほどのマイナスの影響は受けないしれません。

今回の日経平均に対する日銀の姿勢の変化は指数の動きには影響はありますが、結局最後は企業業績で決まる事に変わりはありません。

となると、好業績が続く株式市場は日銀の買い入れ策が消極的になっても特に心配する必要は無いと言えます。