2021年5月10日週刊相場メモ

債券・金利

米国債10年利回りはやや低下して終わっております。

2021年4月27・28日に開催されたFOMC(米国連邦公開市場委員会)後の記者会見でパウエル議長は

最大雇用と物価安定の責務達成にはほど遠く、量的緩和の縮小の要件である「責務達成へ向けた更に顕著な進展」にも時間を要するとし、

量的緩和の縮小を議論するのは時期尚早と答え緩和継続期待の安心感が広がりました。

週初5月3日発表の 米国 4 月ISM製造業景況指数は予想に届かなかったことで10年債利回りが1.58%程度に低下したのですが、

5月4日にイエレン財務長官が米時事誌アトランティック開催の未来経済サミットのオンライン事前録画インタビューで

「財政支出がとても緩やかな金利引き上げにつながりかねない」「米国経済が過熱しないよう金利を多少上げなければならないかもしれない」と発言、

これを受けて金利が再び1.6%を超えて上昇し、株価が下落する局面もありました。

しかし5月5日に「(金利引き上げを)予測したり勧告したものではない。」と火消しを行い、金利上昇が沈静化。

最終、7日発表の米雇用統計が予想を大幅に下回る結果で金利の低下を招き、1.58%程度で終了しました。

雇用の回復が緩和終了、引き締め開始の条件の為、今回の結果は金融緩和継続、金利低下材料として大きく取り上げられました。

投資対象は米国ハイイールド社債、米銀優先株式預託証券、欧州銀CoCo債等が中心で変更ありません。

為替

引き続き米国債利回りがサポート要因です。米ドルが強い状況に変化は無く、今後も極端な円高は想定しておりません。

週末に米雇用統計が予想以下の数字だったために米10年債利回りが低下し、対ドルで円高になりました、全体の趨勢は変化が無いと見ていますが、

短期的には米国金利の動きと為替が連動しているので調整売りによる円高の動きは出ると思われます。

5月4日に豪RBA(オーストラリア中央銀行)金融政策決定理事会が実施され、GDPの成長率やインフレ率予想が上方修正されました。

5月5日にブラジル中銀はインフレ率が目標値を上回っているため、抑制のため政策金利引き上げを2会合連続で行いました。

オーストラリアは感染者数の抑制に成功し、景気が回復してきている中でのインフレ率予想の上昇ですが

ブラジルはコロナ感染者数が減らずに景気が低迷している中でのインフレなので同じインフレでも豪州とブラジルでは状況が全く違います。

引き続き新興国通貨には慎重姿勢です。

5月4日実施の豪RBA(オーストラリア中央銀行)金融政策決定理事会ですが

政策金利と3年国債利回りの誘導目標を0.1%で据置、経済見通しは強気に修正し、今年の実質GDPの成長率は4%予想から4.75%へ上方修正、

失業率も5.5%予想を4.5%へ上方修正、2023年半ばにはインフレ率が2%へ上昇予想(従来は1.75%予想)と景気回復に自信を持ってきております。

次回の7月理事会では今後の金融緩和縮小や2024年利上げに向けて議論を始めるとみられます。

5月5日実施のブラジル中銀は政策金利を0.75%引き上げて3.5%に変更しました。3月から2回連続利上げです。

3月の消費者物価指数が6.1%上昇、食品価格が13.9%上昇とインフレが激しいことが理由です(目標値は3.75%±1.5%)。

年末の予想も前回4.6%なのを5%へ修正しており、6月会合でも利上げが予想されます。

引き締めすぎると景気が悪化する懸念はあるものの、インフレを抑制しないと人々の生活が厳しく、政権への不満も増大します。

利上げを受けてレアルがやや上昇しておりますが、景気悪化の懸念が強く強気にはなれません。

株式

GWがありましたが、結果概ね上昇して終わっております。

日本の決算発表は東証1部上場企業の1057社が10日~14日に行われます。

今の好決算はある程度織込済で、来年予想に注目が集まり、慎重な予想を出した会社は下落しております。

しかし、期初で慎重な予想を出している企業が多いとみられるので弱気になりすぎる必要は無いと見ております。

株価の回復にワクチン接種の広がりが影響を与え始めております、4月23日までで米国は(ワクチン接種回数/人口)が68%、フランスやドイツは28%台、日本は2%台です。

2021年のGDP成長率もスイスのピクテ社によると米国6.3%予想、欧州4.1%予想に対して日本は2.9%予想と差が出てきております。

目先の好材料①4月公表予定の追加経済対策を含むバイデン政権の財政支出法案の成立②好調な企業決算③堅調推移する景気指標④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ

懸念材料は①コロナ感染拡大が再び加速②米中緊張激化③米経済対策法案成立遅れ④短期的過熱感の解消の為の調整売り⑤民主党の増税政策や金融規制強化⑥米国長期金利の急騰

これらに大きな変更はありません。

好材料「②好調な企業決算」ですが、

米国ファイザーの決算が出て、新型コロナワクチンの今年通年の売上予想を従来の150億ドルから260億ドルに大幅修正しております。

ワクチン開発企業ではファイザー・バイオンテック連合が一番先行しています。

日本企業では任天堂の決算が巣ごもり消費の恩恵を受けて売上+34%、純利益も+85%の通期での好決算を発表しております。

JALは巨額の赤字決算を出しておりますが、手元の現金と金融機関からの借入枠は豊富な為、破綻リスクは小さいと言えます。

好材料「③堅調推移する景気指標」においては

4日発表の貿易統計が輸入量の増大でモノの貿易赤字としては単月で過去最大と米国人の消費意欲の高まりを示しました。

給付金は3月支給なので米国の消費はワクチンの普及と共に暫く好調を維持するとみられます。

7日の米国の雇用統計は予想値の100万人を大幅に下回る26.6万人の結果でした。

これを受けて早期の緩和引き締め観測が後退し、10年債利回りは低下、グロース系のNASDAQの上昇に繋がりました。

6月に強い数字が出る可能性もありますが、雇用の回復は一朝一夕に出来るものでは無いことを市場に認識させたので金融相場はまだ続きそうに思えます。

緩和策が膨らみすぎた後の反動は将来の懸念材料ですが、今は世間の悪いニュースが株には良いニュースとして好感する流れが続きそうです。

経済イベント(抜粋)

5月3日 米国 4 月ISM製造業景況指数

62.7(予想:64.1、3月:63.7)予想を下回った結果に失望し米国債相場が反発。10年債利回りは再び1.6%を割り込む要因になりました。

5月4日  米国 3 月貿易統計

米商務省が4日発表した3月の貿易統計(通関ベース、季節調整済み)によると、モノの貿易赤字は906億400万ドル(約9兆9000億円)と前月に比べて4.1%増え単月で過去最大を記録しました。3月の家計への現金給付開始で個人消費が活発になり、輸入が膨らんだ事が原因です。

自動車や衣料品、家具、パソコンなどの輸入が拡大し、輸入は7%増えて過去最大の2330億ドル。輸出は1424億ドルと8.9%増えました。

米国の景気回復と消費好きなアメリカ人がお金を手にして動き始めた事が貿易赤字拡大に繋がっています。

5月5日 米国 4 月ADP全米雇用レポート

 企業向け給与計算サービスのオートマチック・データ・プロセッシング(ADP)とムーディーズ・アナリティクスが5日に発表した4月の全米雇用報告は、民間部門雇用者数が74万2000人増加しました(予想80万人増)。

前月の民間部門雇用者数は51万7000人から56万5000人に上方改定されております。

業種別では、レジャー・接客が23万7000人増と堅調。製造は5万5000人増、建設は4万1000人増とコロナ禍後を目指した動きが活発です。

雇用の伸びが予想を下回った原因の一つとして、一部の産業での労働者不足が影響した可能性が指摘されております。

企業と応募する人の間で求人のミスマッチが起こっているのかもしれません。

5月5日 4 月ISM非製造業景況指数

米サプライマネジメント協会(ISM)が5日発表した4月の非製造業(サービス業)景況感指数は62.7(前月比-1.0P)で2カ月ぶりの低下ですが、力強い回復傾向は続いております。

ダウ・ジョーンズ社がまとめた予測(64.1程度)を下回ったのですが、アンケートからは「人手が逼迫している」(宿泊・飲食サービス)、「物流と供給が追いつかない」(卸売)等のコメントが多くあったようで需要に対して供給が追いついていない状況のようです。

5月6日 米国 新規失業保険申請件数

新規失業保険申請件数(4月25日~5月1日の週)

結果 49.8万件(予想53.8万件 前回 55.3万件)

継続受給者数 結果369.0万件(予想362.0万件 前回 366.0万件)

コロナ後で初の50万件割と雇用環境の回復が見られます、一方で継続受給者数は依然高水準で金融緩和継続の根拠になっております。

5月7日 米雇用統計4月分

結果 26.6万人増加(予想100万人)、その他4月分は速報値が91.6万人だったのを77万人に下方修正、失業率は6.1%に上昇(前月6%、予想は5.8%)

このエコノミスト予想の外し方は史上2番目だそうです、事前には100万人以外に150万人、200万人といった予想もあったので大きなサプライズです。

ただ、悪いニュースが良いニュースとして捉えられました。雇用の伸びが悪いので金融緩和を続ける根拠をFRBに与えたとして10年債利回りの低下とNASDAQを中心としたグロース系銘柄の買いに繋がりました。

雇用が伸び悩んだ理由として、解雇が高水準なこと、求人と求職のミスマッチ、失業保険の上乗せ(毎週300ドル)による就業意欲の減退等があげられております。

在NY日本総領事館のホームページによると失業保険給付金は州によって上限金額が違います。

ここでは6つの州(NY、ニュージャージー、ペンシルバニア、デラウェア、ウエストバージニア、コネチカット)が掲載されており、最低がデラウェア州の400ドル/週、最高がニュージャージー州の713ドル/週で給付期間は26週間です。

ここに300ドル加算となると週700~1013ドルになるので8時間労働、5日勤務と仮定すると時給17.5ドル~25.3ドル相当で、バイデン政権が目指す最低賃金の引き揚げ目標15ドルの時給を大幅に上回り、働かない方が収入が多いという奇妙なことになります。

加算は9月6日まで続くので過度な補助金が労働意欲を減退させた影響は意外と大きいのかもしれません。

決算発表(抜粋)

5月4日ファイザー 第一四半期 売上145.8億ドル(+44.6%、予想134.1億ドル)、EPS93セント(予想78セント)今年は新型コロナワクチンの売上を150億ドル予想から260億ドルに大幅上方修正しております。通期の売上高も601.7億ドルとしていたのを705~725億ドルに上方修正して予想を出しております。

5月5日ペイパルHD 第一四半期 売上60.3億ドル(+30.6%、予想58.9億ドル)、EPS4.7ドル(予想4.56ドル) 電子決済の広がりとビットコインの取次も事業として取り組んでいるのでビットコイン上昇の恩恵を受けた決算となっております。

5月6日任天堂2021年3月通年決算 売上1兆7589億円(+34.4%)、EPS4032円(+85.7%)任天堂スイッチの販売好調、あつまれどうぶつの森等のゲームダウンロードも好調、2022年3月予想は今年の反動や半導体不足による生産懸念もあり慎重で売上1.6兆円(-9%)、EPS2854.2円(-29%)としており、株価下落の要因になっておりますが、ここ数年上方修正している会社なので期初をかなり慎重にみている為だと思われます。

5月7日 日本航空 2021年3月通年決算 売上4812億円(-65.3%)、EPS-764.99円(2866億円の赤字)

現段階では現預金4083億円と金融機関のコミットメントラインが3000億円あり、約7000億円の資金がある状態です。

この第1四半期で資金流出額が月間で100~150億円程度に圧縮できる見込みとしており、倒産するリスクは小さいと見られます。

緊急事態宣言は伸びましたが、国内旅行の回復次第によっては第2四半期からキャッシュは黒字化できるとみている様です。