2021年5月31日週刊相場メモ

債券・金利

米国債10年利回りは再び1.58%と低下傾向です。米国のインフレに関連する指標が落ち着きを見せてきていることが背景にあります。

5月25日発表の5月消費者信頼感指数(コンファレンス・ボード)が5か月ぶりに低下したことや、

5月28日発表の4月米個人消費支出(PCE)は前年同月比で3.6%の高い伸び率を示しましたが、3月が4.2%増加でマーケットにインパクトを与えた数字に比べると低い事と、

3月分で世間が高い数字に慣れてしまっており、マーケットサプライズにならなかった為とみられます。

結果、週初1.62%で始まった米10年国債利回りは1.58%で週末を迎えております。

現在金融緩和の縮小が懸念されているものの、投資資金が潤沢な事に変化は無く、日本や欧州の金利水準が米国に比べて低い状況にも変化は無いため

投資を行う上で米国の債券が最重要視される構図に変化はありません。

よって米国自体がインフレ懸念で利回り上昇を見せても、海外からの投資資金の流入により抑えられる展開は続きそうです。

投資対象は米国ハイイールド社債、米銀優先株式預託証券、欧州銀CoCo債等が中心で変更ありません。

為替

米国10年債利回りの動きに連動して動いており、膠着状態です。

引き続き米国債利回りがサポート要因でやや円安気味に推移する見方に変更はありません。

5月26日にニュージーランド(NZ)準備銀行(中央銀行)が政策金利を0.25%で据え置きを発表しましたが、政策金利については、制約のない政策金利というややアバウトな目安ですが、22年の利上げ開始を示唆しました。

試算値として算出される制約のない政策金利の水準は24年が1.78%と、来年の利上げ開始を想定すると急速な引き締めが示されました。

実行できるかは世界情勢次第の面もあり、柔軟な対応を行うと見られますが、2022年利上げ開始となると先進国では早い着手で、経済の好調さを維持できれば為替にとってプラスとなりそうです。

株式

米国金利の落ち着きが株式への好影響を与え、再び上昇して週末を迎えております。

目先の好材料①バイデン政権の財政支出法案の成立②好調な企業決算③堅調推移する景気指標④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ

懸念材料は①コロナ感染拡大が再び加速②米中緊張激化③米経済対策法案成立遅れ④短期的過熱感の解消の為の調整売り⑤民主党の増税政策や金融規制強化⑥米国長期金利の急騰

これらに大きな変更はありません。

目先の好材料①の財政支出法案ですが、21日に民主党側より「米国雇用計画」の規模を当初2.25兆ドルから1.7兆ドルに減額する案を共和党に提示しました。歩み寄りにより成立の可能性を高めたい為です。

しかし、内容をよく見ると殆ど変化がありません。道路や橋への投資を390億ドル減額、ブロードバンド投資も350億ドル減額された様ですが、減額の大半を占める研究開発費支援や製造業への投資分野4800億ドル減額は、審議中の「米国イノベーション・競争法案」に移しただけです。

民主党側としては全体の規模を減額する意思は余り無く、通せるところから通したい、その為に一部組み替えて共和党に提案していく作戦の様です。

とは言え共和党側も勿論把握しているので成立には時間がかかりそうです。

余りに民主・共和党がもめてしまい、時間がかかりすぎると好材料であるはずの財政支出法案が、懸念材料の③米経済対策法案成立遅れになってしまい、株式市場にマイナスの影響を与えてしまうと厄介です。

今後も状況を随時お伝えして参ります。

②決算についてですが、日米で大きな違いが目立つ決算でした。

三井住友DSアセットマネジメント集計によると2020年度の本決算の実績は、前年度比で売上高は7.6%減、営業利益は14.1%減、経常利益は6.3%減、純利益は2.6%減です。

2021年度の業績予想は前年度比で売上高は6.5%増、営業利益は27.1%増、経常利益は19.5%増、純利益は27.4%増という結果です。

今回日本企業は、売上高、営業利益、経常利益、純利益の予想値のほとんどが事前の市場予想を下回りました。純利益について見ると、市場予想は全体で38.4%増に対して27.4%増です。

期初で慎重な予想を出してきている為と考えられますが、上昇継続には四半期ごとの決算で見通しが上方修正されることが必要だと思います。

米国については、1-3月期の四半期決算ですが、5月19日時点でS&P500社中470社が発表し、ほぼ終了しています。

一株当たり利益は前年比+45%と大幅増益となっています。

日本と大きく違うのが事前予想からの修正です、1-3月期の一株当たり利益の事前予想が前年比+22%でしたが、実際は+45%となり、23ポイントの上方修正で、予想を良い意味で裏切ってます。

コロナ禍からの回復度合いの見込みが違いを生んでいると見られ、やはり米国が世界の株式市場をけん引する姿に変更はなさそうです。

その他

欧州の状況について触れておきます。

ユーロ圏の1-3月期の実質GDPは前期比▲0.6%と、10-12月期の▲0.7%に続き、2四半期期連続でマイナス成長でした。

しかし、ドイツ連銀(ドイツ中央銀行)の週次経済活動指数は、ドイツ経済が4-6月期にプラス成長に転じたことを示唆したり、

フランス統計局の5月公表の経済見通しが4-6月期の成長率を前期比+0.25%程度の見通しを出す等プラス転換の見通しが出始めております。

原因は①新型コロナ新規感染者の減少や行動制限の緩和予定②ワクチン接種加速③米中中心に海外経済の回復で輸出が伸びる等です。

フランスは5月3日から6月末にかけてコロナ禍での制限を4段階で緩和予定です。

スペインは非常事態宣言を5月9日に解除し、夜間外出禁止をやめました。

ドイツは5月9日以降ワクチン接種者を夜間外出の適用除外、イタリアも同様の措置を講じています。

ワクチン接種状況は5月18日時点で1回でも接種した人の割合が米国で約50%、ドイツは約40%、ユーロ圏で約30%と進んできております。

物価面ではユーロ圏の消費者物価(HICP)総合が4月確報値で前年同月比+1.6%にまで上昇しました。

HICPコア(エネルギー、食品などを除くベース)は、4月確報値で同+0.7%です。エネルギー価格上昇や需給のミスマッチが解消される2022年には総合・コアともに1%程度に落ち着くとみられています。

金融政策面ではECB(欧州中央銀行)の金融政策に関しては、6月の理事会で、3月に決定したPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)による4-6月の大幅な購入増額を

7-9月期に解除することが予想されるものの、金利の上昇次第によっては柔軟な運営が行われるとみられ、緩和解除は慎重に行われるとみられます。

現在のユーロ圏物価見通しは2022年1.2%、2023年1.4%です。

ECBの緩和的な金融政策は、2023年まで継続されると予想されユーロ圏及び世界の株式にとって追い風は続きそうです。

経済イベント(抜粋)

5月25日 米国 4月新築住宅販売件数 

結果:86.3万戸(予想:95.0万戸、3月分修正:91.7万戸←102.1万戸)住宅の需要は旺盛ですが、木材をはじめとする材料の高騰もあり供給不足がネックになっています。

中古住宅が不足している事も新築に顧客が流れている要因の一つになっているそうです。

5月25日 5月消費者信頼感指数(コンファレンス・ボード)

結果:117.2(予想118.8ブルームバーグ集計)で5ヵ月ぶりに低下です。

前月は117.5(速報値の121.7から下方改定)で2020年3月以来の1年ぶりの高水準でした。

個人に対する1,400米ドルの直接給付などの措置や経済活動再開によるプラス効果が一巡しつつあると思われます。

よってインフレに関する論議も落ち着いてくる可能性が出てきたと言えるでしょう。

5月27日 米国 新規失業保険申請件数、05月16 ~ 05月22の週

結果:40.6万件(予想:42.5万件)前週 44.4万件(前週比) 

これはパンデミックの後においては最も少ない数字です。

2週間以上失業手当を請求し続ける継続受給者数は364.2万件で予想の368万件を下回り、前週の375.1万件より改善しております。

ただ、パンデミック前は新規失業保険申請件数は20万件台で推移していたため、金融引き締めを開始するには更なる雇用状況の改善が必要だと思われます。

5月28日 4月米個人消費支出(PCE)

結果:前月比+0.5%(予想と一致)、前年同月より3・6%上昇です。

FRBが重視する物価指標PCEデフレーターのエネルギー、食品を除くコア指数は前年同月比+3.1%(予想2.9%)です。

4月30日に3月分が発表された際は大きくマーケットを動かしましたが、今回は事前に高い数字がある程度予想されており、債券市場に大きな影響は与えませんでした。

決算発表(抜粋)

5月26日 米国 エヌビディア、2021年第1四半期(2~4月)決算

売上高56.6億ドル(前年同期比+83.8%、予想は54.1億ドル)EPS3.66ドル(予想3.28ドル)、純利益は19.12億ドル(前年2.1倍)

ゲーム部門とデータセンター部門が伸び、予想を上回る好決算でした。営業費用が16.73億ドルに対して営業利益が19.56億ドルと高収益を維持しております。また、第2四半期に関しても売上高61.74~64.26億ドルの見通しが出る等とても強気です。

ただ、前期は仮想通貨のマイニングに同社のGPUが多く使われており、米中の規制の影響が今後の業績にどの程度の影響を与えるかの懸念材料は残ります。

5月27日 米国 セールスフォース・ドットコム 2021年第1四半期決算

売上高59.6億ドル(前年同期比+22.6%、予想58.9億ドル)、EPS1.21ドル(予想0.88ドル)です。

第2四半期は62.2~62.3億ドルの見通しを出しております。

今月12日に同社の障害によって大手企業のシステムがダウンする事故がありました。

日本企業で名前が出ていたのが新生銀行、日興証券、イオン銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券等が出ています。

システム強化は永遠の課題ですが、一方でこれだけ日本企業の大手の名前が出てくると言うことは、日米で大手を取り込み、揺るぎない地位を確立できているからともいえます。

今後も同社システムの普及は広がりそうです。