2021年6月7日週刊相場メモ

債券・金利

米国債10年利回りは週の大半を1.6%程度で推移していましたが、週末に雇用統計の結果を受けて下落し、1.56%で終了しました。

6月1日発表の5月の米供給管理協会(ISM)製造業景気指数は61.2(分岐点50)と、2ヵ月ぶりに上昇しました。

6月2日発表の米国5月自動車販売台数は111万台で、前年同月比マイナス30.1%ですが、落ち込み幅は4月の46.6%減から改善し、3カ月ぶりに100万台を回復し、改善傾向です。

6月3日発表の5月23日~29日の週の新規失業保険申請件数は38.5万件と前回の40.5万件より改善傾向です。

6月4日の雇用統計は非農業部門雇用者数が55.9万人増加と事前予想の65万人と比べるとやや少ないですが4月の27.8万人増加より加速し、失業率もマイナス0.3%の5.8%になるなど内容は悪くありません。

マーケットでは失業率が低下した内容より雇用者数の増加数が予想より低かったことを取り上げ、金融緩和縮小に関する議論が遠のくと見て米国10年債利回りが週末下落しました。

以前ならばこれらの経済が好調な事を示すニュースはインフレ要因として取り上げ、米長期金利の上昇要因になっていそうなものです。

しかし、今は市場が慣れてしまっており、動きが鈍いです。

また、金利が多少上昇しても日米金利差が開いているため、日本の機関投資家の投資マネー等が米国に流れ込んでおり、利回り上昇ペースを抑えるのに一役買う状況が続きそうです。

6月2日に米FRBは昨年3月に整備したETFや社債を買い入れた「セカンダリーマーケット・コーポレートクレジットファシリティー(SMCCF)」について、段階的な売却を開始する計画を発表しました。

一部には金融緩和解除かと言われる向きもありますが、規模は137億ドルで昨年3月以降FRBの増やした総資産が約3.6兆ドル(内社債購入7500億ドル)に比べるととても小さいです。

これはマーケットがどの様な反応をするか、材料を小出しにしてFRBが試しているとみられます。緩和の方向に大きな変更は無いとみられます。

投資対象は引き続き米国ハイイールド社債、米銀優先株式預託証券、欧州銀CoCo債等が中心で変更ありません。

為替

膠着状態ではありますが、ドル円はやや円安気味の傾向と見方に変更はありません。引き続き米国債利回りがサポート要因です。

6月1日にRBA(オーストラリア準備銀行)は政策金利とYCC(イールドカーブ・コントロール)における3年国債利回りの誘導目標をいずれも0.1%で据え置き、量的緩和も現状の方針を維持すると発表しました。

今後の市場の注目は7月の理事会で現状の金融緩和政策を維持するのか、緩和縮小が示唆されるのかに注目が集まります。緩和の縮小が決定され、豪ドル金利が上昇傾向となれば、為替を下支えする要因になり、ポジティブです。

同じく6月1日、トルコのエルドアン大統領が、テレビインタビューで「金利を下げる必要がある」、「7月、8月に金利が低下し始める必要がある、金利を引き下げれば投資の負担が軽減される」と発言、インフレ対策を軽視した発言で、大統領の経済音痴への不信感が改めて認識され、対ドル最安値の1ドル=8.88リラまで売られました。

引き続き長期保有するには厳しい通貨と考えております。

株式

週末こそ長期金利の低下を受けて米国株は上昇しましたが、膠着状態です。決算発表が一巡し、次の材料待ちといった所です。

米国においては決算発表が市場予想を超える売上高、純利益を記録し、ワクチン接種の広がりもあって経済の好調さが次々と伝わってきます。

今週の決算欄で取り上げたようなドキュサインの様に暫く株価が低迷していましたが、決算内容を市場が好感する等、業績がしっかり伸びている銘柄を丹念に拾う時期と考えます。

目先の好材料①バイデン政権の財政支出法案の成立②好調な企業決算③堅調推移する景気指標④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ

懸念材料は①コロナ感染拡大が再び加速②米中緊張激化③米経済対策法案成立遅れ④短期的過熱感の解消の為の調整売り⑤民主党の増税政策や金融規制強化⑥米国長期金利の急騰

これらに大きな変更はありません。

好材料の中の④のワクチン普及ですが、検査陽性率の推移をみると、イスラエル・英国では4月下旬以降ほぼゼロ%となり、ワクチンの効果が明確に表れています。

米国も経済活動の正常化が進む中でも、5月下旬時点で検査陽性率はドイツや日本を下回りました。

日本も接種ペースが加速してきており、ワクチン接種が順調に進めば7月か8月にはコロナ禍は一段落しそうです。

ワクチン接種のペースの加速は日本株にも好影響を与えるとみられております。

その他

為替ヘッジと日本の機関投資家の投資マネーが米国債利回り低下に一役買う構図についての解説

債券・金利の項目で日本の機関投資家が米国の国債利回りを抑えるのに一役買っていると書きましたが、理由は日米金利差が開いている事と、外債投資で為替リスクをほぼ消して運用する事が可能な状況だからです。

外国債券に投資を行う際、通常は為替リスクを負うのが一般的ですが、生保や邦銀等の機関投資家は「為替ヘッジ」を利用する投資も実施しております。

これはドル円であれば、「直物のドル買い・円売り」と、「先物のドル売り・円買い(一般的には1か月~3か月の短期先物)」という逆の動きをする取引を同時に行う事で、

投資するために購入したドルの評価が円高で下がっても、売り建てた先物の評価が上がり、お互いが相殺される様に設計する投資手法です。

これを実施するには費用(ヘッジコスト)がかかります。

このヘッジコスト(ドルの調達金利)は、日米の金利差とベーシススワップ(上乗せ金利)の合計です。

ベーシススワップとは、ドルを調達する際に相手方に支払う上乗せ金利の事で、需給で決まります。ドル需要が高まれば高い上乗せ金利が要求されます。

2020年のコロナショック時は1.5%程度まで急騰しました。

現在このヘッジコスト(日米3か月金利差+ベーシススワップ)は0.3~0.5%での推移が続いております。

例えば、日本の機関投資家が利回り1.6%の米国10年国債を購入し、0.5%程度のヘッジコストで為替ヘッジを行うと、為替リスクがほぼ無くなり、金利差1.1%が手に入ります。

日本の10年国債が0.1%未満の為、機関投資家からすると日本国債を買うよりもヘッジをかけて米国国債を買う方が魅力的なので積極的に資金を振り向けます。

為替面では売りと買いを同時に行うので影響はありませんが、米国国債の利回りについては上昇を抑える大きな要因になります。

FRBの政策が第一に重要ですが、日銀の低金利政策も米国国債の利回りに間接的に大きな影響を与えております。

リスクは、カバーする先物が1か月~3か月程度で終了するので投資した国債の運用が続く限り先物取引をつないで継続しないといけません。

その際にヘッジコストが上昇してしまうと受け取る金利差が減ってしまったり、時には赤字になってしまったりするリスクがあります。また、為替とは別に、国債の価格が下落する事態が起こるとそちらの損失を被ることもあります。

普段は為替リスクを回避して利息を安定的に受け取れる魅力的な取引ですが、突発的なイベントには弱いです。

経済イベント(抜粋)

6月1日 RBA(オーストラリア準備銀行)政策決定会合

政策金利とYCC(イールドカーブ・コントロール)における3年国債利回りの誘導目標をいずれも0.1%で据え置き、量的緩和も現状の方針を維持すると発表。

同時に出された声明文で、「住宅市場に投資目的の融資が拡大している」、労働市場についても「失業率の低下は予想以上」、「一部では労働力不足が報告されている」などの文言が入り、景気過熱への警戒感をにじませております。

7月の会合に注目が集まりますが、資産買い入れペースの縮小等、金融緩和の縮小が予想されます。結果として豪州金利の上昇があれば豪ドル相場を下支えしそうです。

利上げによる本格的な金融引き締めについては「実際のインフレ率が2~3%の目標範囲内に持続的に収まるまで翌日物金利を引き上げない」、「2024年までにこうした状況になるとは予想していない」と政策金利据え置きを続ける方針を改めて示しており、市場が過剰反応しないように配慮した内容になっております。

6月1日 5月の米供給管理協会(ISM)製造業景気指数 

結果61.2(予想61.0)、2ヵ月ぶりに上昇。50を上回ると景気拡大、50を下回ると景気縮小とされています。

内訳では、景気指数を構成する5つの指数のうち、新規受注指数が2004年1月以来、およそ17年ぶりの高さとなった今年3月に近い水準へ回復したほか、在庫指数が2ヵ月ぶりに上昇です。

生産指数と雇用指数は2ヵ月連続で低下しました。 物流の遅延を表すとされる供給業者の納入指数は1974年4月以来、約47年ぶりの高水準を記録しました。同指数は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて昨年8月以降、上昇基調が続いており、物流面で製造業のコスト上昇をもたらしている可能性が考えられます。

6月2日 米国自動車販売台数 

結果:111万台(前年同月比マイナス30.1%)4月の46.6%減から改善し、3カ月ぶりに100万台を回復しました。

他の国の5月の販売台数を見てみると、中国は5月が前年同月比11.7%増の213万6000台と2カ月連続でプラスとコロナ禍からの回復が早かった分販売の回復も早いです。

一方でコロナ禍からの回復が遅れていた欧州は、ドイツが16万8148台で前年同月比マイナス49.5%、イギリスが2万247台でマイナス89%、日本は21万8285台でマイナス44.9%となり、4月のマイナス28.6%に比べて悪化しております。

ただ、悲観する必要はないと思われます。最近トヨタ自動車の株式が上昇しているのは米中の回復の恩恵や日欧についてもワクチン接種が広がり、将来の販売回復期待が支えております。

足下の販売の減少があっても正常化に向かうにつれて増加に転ずると予想されます。

6月3日 5月ADP全米雇用レポート 

ADP発表、民間部門雇用者数は前月比プラス97万8000人(予想プラス65万人)、

4月の雇用者数は当初発表の74万2000人増から65万4000人増へ下方改定。

6月3日 全米供給管理協会(ISM)発表、5月ISM非製造業景況指数 結果:64.0(4月は62.7、1997年来で最高)

仕入れ価格についても80.6で2005年9月来で最高を記録しており、コロナ禍からの回復ぶりが裏付けられております。

6月3日 5月23日~29日の週の新規失業保険申請件数及び失業保険継続受給者数

5月23日~29日の週の新規失業保険申請件数 結果:38.5万件(予想:38.7万件、前回:40.5万件)、

失業保険継続受給者数 結果:377.1万人(予想:361.4万人、前回:360.2万人)

6月4日 米労働省発表5月雇用統計 結果:非農業部門雇用者数 前月比プラス55.9万人(予想65万人) 

4月に100万人を予想しながら27.8万人の結果に終わっていましたが、5月の誤差は比較的小さい結果です。

大きく伸びているものの予想よりやや小さい今回の結果は居心地が良い結果です。

未だ完全雇用を目指す水準からは800万人程度の失業者がいると言われており、金融緩和の規模を徐々に減らしていく議論はしても、金融引き締めに入る事は厳しく、株式にとって悪くない結果と言えます。

決算発表(抜粋)

6月1日 米国  ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ 

第1四半期(2~4月)決算発表 売上高9.56億ドル(前年同期比プラス191.4%、予想9.08億ドル)、EPS1.32ドル(予想0.98ドル)。

予想を大幅に超えました。

今期の通期予想も市場予想を超え、通年で売上高39.75~39.9億ドル(予想38億ドル)、EPS4.56~4.61ドル(予想3.74ドル)となりました。

過去12か月の売上で最も貢献したのが10万ドル以上を支払う大口顧客で、前年同期比で160%伸びました、従業員10名以下の顧客数の伸びが87%なので今年は大企業の導入が増えているとみられます。

株価は大きく伸びた反動で調整中ですが、売り上げは順調に拡大しており、コロナ禍からの正常化の中で再び売り上げの伸びが再確認できれば株価が再び上昇する事が期待できると考えます。

6月3日 米国 ドキュサイン 

第1四半期(2~4月)決算発表 売上高4.69億ドル(前年同期比プラス57.9%、予想4.38億ドル)、EPS0.44ドル(予想0.28ドル)です。

今期売上高も市場予想を上回る見通しが示されました。

売上高は通期で20.27~20.39億ドル(修正前19.9億ドル)です。

同社は売上高の96%がサブスクリプションで、一度契約すると長期にわたって収入が確保できる非常に安定したビジネスモデルです。今後も実績を積み上げる可能性が高いと思われます。