「プライベートバンクは富裕層に何を教えているのか?」です。副題にその投資法と思想の本質とあるので選びました。

ダイヤモンド社から出版されてます。2017年9月13日発刊です。
まずは著者紹介です。
冨田和成さん、1982年生まれ、一橋大学卒業後野村證券入社、
2013年に株式会社ZOOを設立現在に至る。
株式会社ZOOは2018年にマザーズに公開した会社です。
本書はプライベートバンクを利用できる富裕層の基準、種類とその悩み、プライベートバンカーの仕事のやり方、運用商品等を紹介しております。
最後にプライベートバンク的に自身の資産運用を行うやり方に触れてます。
まず、富裕層の基準は日本では金融資産1億円以上保有している人です。
富裕層といっても色々で、高齢の事業家、若手起業家、病院経営者、不動産オーナー、不動産投資家、成り上がり型、相続型と分けてます。
ただ、共通して相続税支払いのためにお金に困っていることが書かれてます。
本の中では相続税は企業でいう未払金にあたり、負債だとしてます。
プライベートバンカーはそんな悩める資産家のCFOとしてお金の悩みを解決したり、家族に相談できない事を相談する良き理解者であることが求められます。
日本の事業者はまだ未熟で、担当者の転勤で関係が切れたり、手数料が高いとも書いてます。
また、日本は富裕層が育ちにくい環境とも書いてます。
3つの理由があって、
1つは戦後の何百倍というインフレが起こったこと
2つは戦後に行われた財産に対する国の課税
最高税率は90%です。これで殆どの戦前の富裕層が壊滅
3つは世界で最高税率の相続税
世界では相続税を取ってない国も多いです。
具体的な資産運用に使われる金融商品ですが、色々紹介はされてますが大部分は一般の投資家が普通に買える金融商品で、特別なものは一部です。
株式はインデックス投資が中心で世の中の平均値で良いとされ、あとは外貨建て債券やヘッジファンド、不動産REITなどで一般の証券会社で買えるものがほとんどです。
一部プライベートエクイティと言われる未公開株投資や大口の仕組債なども紹介されてますが全体に対しては比率は低いです。
やや特別なものとして海外で入る生命保険が紹介されてます。最高100億円くらいまでかけられます。保険を担保にお金を借りて掛け金を増やして膨らませることもできます。
商品をいかに買うかよりかは金融資産のゴールを決め、それに対してどの程度のリスクをとるか相談した上で商品の構成をどう組むかという運用のスタイルについてよく書かれてます。
最後にプライベートバンク的な運用のやり方が紹介されてます。
これは非常にオーソドックスで、自分のバランスシートと収支計算表をつくり、将来の目標を明確にしたうえで運用資産を分散投資でじっくり増やすというものでした。
資産を今から何倍にも増やすというよりは価値をインフレや相続税に対して負けないようにじっくり時間をかけて運用するやりかたの紹介で、現在金融資産を多額に保有している人や実際に担当している金融機関の人向けの本という印象です。
感想
私も証券業界に20年いますがかなり思っていることに近かったです。
世の中で資産家と言われて羨ましがられる人々は相続が頭の痛い問題で、会社経営者が相続税支払いのための借金を銀行からしているケースもよく聞きます。
所得税を払ったお金を貯めて最後に相続税ですから実際にはいくら残るんだろうと思います。
結果として当人よりも相続税対策を行う事業者がとても儲かってしまってます。
あまり知られてないですが戦後日本で一度きりですが国債の償還のために財産税という事実上没収があったことは現実で、今の日本の借金を見ると何か危うさを感じます。
まぁ昔の徳政令みたいなものでしょうか。
プライベートバンカーとは資産の価値を維持するために近くで助言を与え続けるアドバイザーで、それをプライベートに抱えることができることこそ富裕層の特権で、何か特別な金融商品があるというわけでは無いように感じました。
ただ、これは元手があるから言える話でもあり、資産家になると大きなリスクを取らなくても自然と増える仕組みを作れるということが言えます。
一方でコンサルティングではなく、金融商品販売で手数料をあげるばかりの金融機関が数多く存在しているのも日本が投資立国になれない原因の一つだとも思います。