2021年7月19日週刊相場メモ

要旨まとめ

債券・金利

7月13日の米6月消費者物価指数が2008年6月以来の13年ぶりの伸びを記録してインフレ警戒論が再び台頭し、一時1.42%を付けました、しかし、14日のパウエル議長の議会証言の内容がハト派的と捉えられ、週末まで金利上昇要因と捉えられそうな材料が出ても金利低下が続き、米10年国債利回りは1.3%で16日を終えております。

将来がインフレになるのか、デフレが継続するのか、議論は真っ二つに分かれています。

投資を案内する我々からすると、市場が将来どちらに振れたとしても、元本の安全性、収益のバランスが取れている債券を発掘する事が任務で、ハイイールド債やCOCO債、優先株式預託証券の個別の内容を良く調べて今まで通り慎重にご案内を行って参ります。

為替

米10年国債利回りが低下傾向で、為替を押し上げる力が弱く、円ドルは膠着状態、他の通貨も同様の動きです。

しかし、FRBが将来の利上げを行う方向に変化はありません。

日銀は16日に脱炭素を支援する企業に対して銀行が融資をしやすくする新融資制度の創設を発表しました。

この制度は金融機関の融資が伸びず、インフレにもならず、苦悩する日銀の深い悩みを表す様な政策だと感じました。

日本が金融緩和縮小、利上げを取れるようになる日は未だ見えず、日米金利差の拡大を見込んで日本から米国に投資資金が流れる構図に変化は無いと見ております。

株式

日米ともに膠着状態です。米国は第二四半期の決算発表が開始され、金融機関からスタートしました。貸し出し部門は利ザヤの縮小が見られましたが、投資銀行部門が金融緩和の恩恵を受け、株式の引受手数料や富裕層向け資産運用部門の収益、M&A手数料等が大幅に伸び、軒並み事前予想を上回る決算となりました。

暫く決算発表により一喜一憂する展開になりそうですが、岡三アセットマネジメント社の分析によると、米国のISM製造業景況感指数が50を超えて上昇する景気拡大局面は一度始まると2年半程度続くのが過去平均で、今回に当てはめると2023年がピークだそうです。

もちろん、過去平均なのでこれより短い時も長い時もありますが、今弱気になる必要がない事を示唆してくれる意見だと思います。

下落局面は買いで臨むスタンスで良いと考えております。

詳細追加解説

債券・金利

7月9日に1.361%だった米10年国債利回りは16日に1.3%迄低下して終了です。

7月13日の米6月消費者物価指数の伸びにより一時1.42%を付けましたが、14日のパウエル議長の議会証言の内容がハト派的内容と捉えられ金利低下に向かいました。

その後、15日の新規失業保険申請件数がパンデミック後で最も申請件数が少なかったり、16日の6月小売売上高も予想を上回る数字でしたが、反応がありませんでした。

パンデミック開始後の金利マーケットはコロナ禍発生で大規模金融緩和に伴い、大幅な金利低下を起こし、その後に政策の後押しや、ワクチン接種の広がりで回復期待と需要の急増によるインフレ率の大幅上昇から将来のインフレを懸念して金利が急騰してきました。

現在の国債市場は、好調な数字やインフレに関する指標が高止まりしていることは織り込み済みで、通常運転に米国経済が入った後にどの程度の回復力があり、政策の動向を見極めたく、様子を見ている状態です。

利回りが低くて投資先に困っている投資家が多い状態も続いているので、利息収入を得るための投資も依然として活発です。

FRBも市場に混乱はきたしたくないので慎重に行動しています。

金融緩和の縮小、利上げの期間はその時の経済状況によって多少違いがありますが、通常2年~4年位かかる話でまだまだ先の事です。

将来どうなるかわからない緩和縮小や利上げを極端に恐れて債券投資を避けるより、現在において最大限魅力があると判断できる銘柄を丁寧に拾って現実の利息収入を確保できる体制を整えた方が良いと考えております。

株式

岡三アセットマネジメント社のISM製造業景況感指数の分析ですが、過去のISM製造業景況感指数の過去の動きでは、景気拡大と後退の境目になる50を一度下から上に抜けると、その後平均して32ヵ月間、50超で推移しており、 ⽶国経済は一度、景気低迷期から脱すれば、平均期間で2年半ほど拡大基調を続けているそうです。

また、50を超えた後は平均して15ヵ月間上昇基調を続けており、今回は2020年6月に50を上抜けし、6月末まで13ヵ月間50を上回り、今年3月に一旦ピークを打っています。

あくまで過去の期間で見た平均ですが、参考にはなります。

今に当てはめると、景気拡大が止まるのは2023年のいずれかの時期となり、今弱気になる必要はないと言えます。

目先の好材料

①バイデン政権の財政支出法案の成立

②好調な企業決算

③堅調推移する景気指標

④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ

懸念材料は

①コロナ感染拡大が再び加速

②米中緊張激化

③米経済対策法案成立遅れ

④短期的過熱感の解消の為の調整売り

⑤民主党の増税政策や金融規制強化

⑥米国長期金利の急騰

その他

日銀の15日から16日に開いた金融政策決定会合について解説いたします。

金融政策決定会合では金融緩和の現状維持が決定されました。

変更があったのはGDP、物価見通しです。

21年度の実質国内総生産(GDP)の見通しを前年度比プラス3.8%と、前回のプラス4.0%から引き下げ、22年度を前回のプラス2.4%からプラス2.7%に引き上げ。

21年度の消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)の見通しはプラス0.6%で、前回のプラス0.1%から引き上げ。

新しい話は

日銀が銀行に対して新しい融資制度を設ける事と日銀の資金運用の選択肢に今後外貨資産運用として、外貨建てグリーン国債などの購入を行っていくこと、

東アジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP)のボンド・ファンドへの投資を拡充し、域内のグリーンボンド市場の育成にも取り組むとする発表をしたことです。

新しい融資制度は、気候変動対応に取組む企業に対して金融機関が融資をして、産業を活性化して貰いたいのが狙いで、銀行にアメを用意しました。

具体的には、この制度を利用した残高の2倍の額ほど日銀当座預金の0金利部分を増やしても良いとする内容です。

日銀当座預金は銀行が日銀にお金を預ける当座預金のことで、

「基礎残高」「マクロ加算残高」「政策金利残高」の3階層あり、基礎残高にはプラス0.1%の金利、マクロ加算残高には0%の金利、政策金利残高にマイナス0.1%の金利を適用しています。

マイナス金利政策というのは「政策金利残高」にマイナス0.1%の金利を金融機関に適用するという政策です。

今回の新制度では、使った残高の2倍の金額を日銀当座預金の0%部分の「マクロ加算残高」を増やします。

「基礎残高」は、2015年の平均残高 – 法定準備金額と金額を決める式が指定されていて金額の変化が少ないです、「マクロ加算残高」は日銀が国債の買入を行っていて、そのマイナスの影響が金融機関に行かない様に0%にしてあげる枠で、これも日銀から金額の決め方が指定されています。「政策金利残高」は上記2つの指定金額を上回る部分のことで、金融機関が日銀から受け取った資金で融資に回らなかった資金が還流したりしています。銀行は貸し出しにとても苦労していて、貸す先無いからとりあえず日銀の当座預金にでも・・・としていたら、日銀が、その部分についてはマイナス0.1%にして、さっさと日銀当座預金から出て、市中の貸し出しに回しなさいとしているのがマイナス金利政策です。

罰金みたいな政策と言えます。

新融資制度を使うと、0%の部分の枠が増えてくれるので銀行はマイナス0.1%に回っている資金を減らせてとても助かるのでアメになります。

ただ、同制度を金融機関は利益になるので積極的に使うと思いますが、全体の融資残高が増えるのか?というと疑問が残ります。

というのが、気候変動対応に取組む企業と言っても曖昧です。

こじつけてしまえば既存の融資の置き換えをするだけになる可能性が有り、結局融資額全体が伸びない事が考えられます。

日銀はどうにかして金融機関に融資残高を増やして、インフレを起こしてもらいたいですが、全く動きません。貸し出し需要が伸びないのです。

日銀は資金供給はしますが、直接融資をすることが出来ないので何とかして金融機関に使ってもらえる制度を作ろうと必死ですが成果は出ておりません。

日本の緩和縮小、利上げはとても遠く、米国との金利差は開く方向に変化が無いことを益々強く意識させる決定会合となりました。

経済イベント(抜粋)

7月13日 米6月消費者物価指数 米労働省発表 結果前月比プラス0.9%(予想前月比プラス0.5%、上昇率は2008年6月の1%以来の13年ぶりの大きさ)。

前年同月比ではプラス5.4%で、上昇率が同じだった2008年8月以来の12年10カ月ぶりの大きさでした。事前予想では4月が総合で前月比プラス0.8%、5月がプラス0.6%で高い伸びながらも鈍化しているので6月は0.5%程度に落ち着いてくるだろうと言われておりましたが、需給ひっ迫の影響は続いているようです。

7月13日 中国税関総署発表 4-6月期貿易統計(ドル建て) 輸出プラス30%、8092億ドル、輸入プラス44%、6693億ドル

輸出は東南アジアが4割、EU向け2割、米国向け2割伸びてますがコロナ禍からの急回復局面が終了して通常運転に入りつつある状況が見えてきています。

商品別ではマスクの輸出はマイナス28%、パソコンもプラス3%程度です。輸入は国内景気の回復を受けて資源購入が増えました、鉄鉱石が9割、大豆は5割、原油は量が1割減少したものの、価格が上昇した影響で金額ベースでは8割増えています。米中冷戦ではありますが、全て止まるという事はなく、買うもの、売るものを選別して、経済面では深い関係を維持していくものと思われます。

7月14日 パウエル議長議会証言(金利)「高インフレは一時的」「最大雇用はまだ先」緩和継続を強調。緩和縮小議論は今後深める。長期金利がやや低下で反応。

7月15日 米労働省発表7月4日~7月10日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み) 結果:36万件(予想36万件、前週は38.6万件)、昨年3月以来1年4カ月ぶりの低水準。

継続失業保険受給者数 6月27日~7月3日までの1週間で12.6万人減の324.1万人。

まだ、雇用のミスマッチは続いていますが、着実に雇用の回復は進んでいるように見受けられます。

7月15日 7月NY連銀製造業景況指数 結果 43(予想18、分岐点0)

予想を大幅に上回り、過去最高を記録です。受注と出荷の指数が過去17年で最も強い数字(受注は33.2、出荷は43.8で2004年5月以来の高い数字)となり、販売価格の指数は39.4、仕入れ価格は76.8と需給バランスがまだ崩れており、需要に生産が追い付いていない状態です。

7月15日  米フィラデルフィア地区連銀発表 7月の連銀業況指数 結果21.9(予想28、分岐点0)

予想を下回り、6月の30.7から鈍化し、昨年12月以来の7カ月ぶりの低水準となりました。

目立つところでは、仕入れ価格は69.7で42年ぶりの水準だった6月の80.7からはやや低下です。春先に高水準を付けましたが、こちらの地域は回復が遅れているようです。

7月16日 日銀金融政策決定会合 金融緩和政策維持を決定、新たに脱炭素を支援する企業向けへの融資をしやすくするために金融機関を支援する融資制度の新設を決めました。

7月16日 商務省発表 6月小売売上高 プラス0.6%(予想マイナス0.4%)

自動車の好調、外食や旅行の回復が予想以上の数字の原因だそうです、インド型(デルタ型)の広がりは警戒されますが、ワクチン接種の広がりにより、人々の行動が活発になってきていることを示しています。

決算発表(抜粋)

7月13日 ゴールドマンサックス 4-6月第二四半期決算 EPS(一株利益)15.02ドル(予想9.85ドル)、売上高153.9億ドル(予想121.7億ドル、前年同期比プラス15.8%)

債券や株式の取次の手数料は大幅に減りましたが、M&Aの手数料や株式引受の手数料が大幅に伸長し、予想を上回る決算となりました。

7月13日 JPモルガン・チェース 4-6月第二四半期決算 EPS(一株利益)3.78ドル(予想3.09ドル)、売上高305億ドル(予想297.1億ドル、前年同期比マイナス7.9%)

金利収入の平均利回りは米国の金利低下の影響を受け前年が2.27%だったのが1.62%に低下し、収益を圧迫しました。一方でM&Aや株式や債券の引受部門は好調でした。

7月13日 バンク・オブ・アメリカ4-6月第二四半期決算 EPS(一株利益)1.03ドル(予想0.76ドル)、売上高215億ドル(予想217.7億ドル、前年同期比マイナス3.6%)

金利収入の平均利回りは前年同期は1.87%だったのが1.61%に低下しております、予想数字は少し上回っていますが、商業銀行部門、投資銀行部門共に前期に比べてやや低調です。

7月13日 シティグループ4-6月第二四半期決算 EPS(一株利益)2.85ドル(予想1.88ドル)、売上高175億ドル(予想171.8億ドル、前年同期比マイナス11.5%)

金利収入の平均利回りは前年同期が2.17%に対して1.92%でした。商業銀行部門が貸倒が減ったこと、投資銀行部門のM&A手数料、株式引受手数料等が大きく伸びて収益を支える一方で債券部の引き受け手数料は低調でした。

7月14日  デルタ航空4-6月第二四半期決算 EPS(一株利益)マイナス1.07ドル(予想マイナス1.35ドル)、売上高71.3億ドル(予想62.5億ドル、前年同期比プラス385.6%)

昨年がパンデミックで大幅に落ち込んだので大幅回復です。2019年の第二四半期と比べると売上高はマイナス53%とまだ通常時の半分です。ビジネスクラスが回復傾向で企業向けのニーズは戻りつつあります、第三四半期は2019年第三四半期比較でマイナス30%程度まで回復するとみており、通常時の7割程度まで戻りそうです。

7月16日 モルガン・スタンレー4-6月第二四半期決算 EPS(一株利益)1.85ドル(予想1.66ドル)、売上高147.6億ドル(予想139.9億ドル、前年同期比プラス8%)

債券引受手数料は減少しましたが、M&A手数料、株式引受手数料、資産運用部門の収入が大幅に伸びて増収です。株式上昇の恩恵を享受しております。