2021年6月21日週刊相場メモ

債券・金利

6月16日に米FRBの理事による政策決定会合(FOMC)が開催され、現行の金融緩和策を継続することを決定しました。

現状維持は予想通りでしたが、利上げ時期が2023年、0.5%程度の方針が明らかになったため、従来2023年は利上げがないか、あっても1回程度とみていたマーケットは反応し、16日の米10年国債利回りは1.59%まで上昇しました。

18日にはセントルイス連銀のブラ―ド総裁が「インフレの状況によっては2022年利上げもあり得る」と発言しましたが、これには債券市場は余り反応しませんでした。

16日には利回り上昇が起こりましたが、その後は再び投資資金が流入し、利回りが下落、

結果1.44%と11日の水準1.45%とほぼ同じで週末の取引を終えております。

つまり、FOMCでニュースは沢山出ましたが、無風に近い一週間だったと言えます。

引き続き満期やコール迄の期間を10年未満に抑えて、ハイイールド債、COCO債、米銀優先株式預託証券等を中心に慎重に銘柄選びを進める事が重要だと考えております。

為替

6月16日のFRBの将来見通しがやや金利高方向であることを受け、日本時間の17日に一時110.82円まで円安が進みました。

しかし、次第に材料として織り込み、結局110円程度で落ち着いた推移となっております。

円ドルについては引き続き将来の米金利の上昇要因がある事と、16-17日開催の日銀の金融政策決定会合で引き続き緩和姿勢に変化がないことから金利差拡大見込みが円ドル相場を下支えするとみております。

16日にブラジル中央銀行が利上げを決定、政策金利を0.75%上げ、4.25%としました。5月の消費者物価指数がプラス8.06%で4年半ぶりの水準です。

今後も6.25%迄利上げは継続するとみて良いと思われます。利上げ継続を受け、レアル相場は対円でも年初来安値より17%程度上昇しております。

かつての30円や40円の水準まではさすがに難しいでしょうが、下落基調に歯止めはかかって参りました。

株式

米国のFOMCに関する話題がマーケットの主要なニュースとなった一週間でした。

色々ニュースで動いたように見えますが、週間で見るとNYダウが3.4%の下落、日経平均は0.1%の上昇と変化は小さく、株価は底堅いです。

今後ですが、2021年は金融緩和継続、2022年に金融緩和縮小、2023年より利上げとされ、FRBの対応が注目され、様々なニュースが出ると思われます。

しかし、景気の状況が引き続き強い事、緩和縮小も利上げもスケジュールが明確に織り込まれたので懸念材料が一つ消えたと捉えて良く、今後も米国株が世界株式をけん引する状況に変化は無いでしょう。

前回の引き締め時の株価の動きですが、

2013年5月にバーナンキ元議長が緩和縮小策を示唆、利上げ開始が2015年12月、以降2018年12月までの期間で0%→2.25%に政策金利を引き上げました。

その間のNYダウは2013年5月に15,000ドル程度、2015年12月が17,000ドル程度、2018年12月は23,327ドルで終了と、緩和縮小を示唆してから利上げ開始までは13%上昇、利上げ開始以降ピークまでは37%上昇です。

過去から見ると、今回のニュースを過度に不安視する必要はありません。

週末にセントルイス連銀のブラード総裁が2022年の利上げに言及し、18日のNYダウは533ドル下落、1.57%程株価が下落しました。

ハト派(金融緩和派)の1人だったので驚いた株式市場は売りで反応しました。

しかし、そもそも2021年にセントルイス連銀はFOMCでの投票権を持っておりません、(18人の参加メンバー中、決定権を持つのは12人で、毎年一部入れ替わります。)

16日の市場の反応が穏やかすぎたので投票権を持たない総裁にタカ派発言をさせ、

マーケットにもう少し織り込ませたい意図だと思われます。

18日の株式市場は、発言をヘッジファンド等が売り材料に利用したと思われます。

ただ、本来の当事者である債券市場が無反応なので影響は限定的と見て良いでしょう。

目先の好材料

①バイデン政権の財政支出法案の成立

②好調な企業決算

③堅調推移する景気指標

④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ

懸念材料は

①コロナ感染拡大が再び加速

②米中緊張激化

③米経済対策法案成立遅れ

④短期的過熱感の解消の為の調整売り

⑤民主党の増税政策や金融規制強化⑥米国長期金利の急騰

ここに変化は無く、今後も繰り返しこれらの材料が出たり消えたりする事を継続しながら最後は企業業績とFRBや政府の政策により株価は堅調に推移すると見ております。

その他

FRBの姿勢の変化がニュースとして大きく取り上げられたので今回のFOMCのポイントや今後の捉え方を整理、解説いたします。

政策決定会合(FOMC)では、(政策金利である)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0~0.25%に据え置き、

国債保有を月800億ドル、ローン担保証券の保有を月400億ドル引き続き増やす現行の金融緩和策の継続を決定しました。

現状維持は予想通りで、今回話題になったのはFRBの姿勢の変化です。

まず、金融緩和をやめて金融引き締めに入る時期ですが、2023年に開始するべきと表明する人数が変わりました。

メンバー全員は18人で、2020年9月では4人が主張、2020年12月に5人、2021年3月に7人でした、これが今回は13人と過半数になったので市場は2023年に利上げ開始と捉えました。

次にFOMCメンバーが適切と考える「政策金利水準の分布図(ドットチャート)」の変更点です。

ドットチャートは、3月、6月、9月、12月に開催されるFOMCで、FOMCメンバーによる経済見通しのなかで公表されます。

18人が今後FRBの政策金利をいつ、何%にするのが適当と考えるか、現時点での意見を表に点(ドット)で示すのでドットチャートと呼んでいます。

予想分布の中央値から政策金利の変更回数を読み取ることができるため、市場では利上げ時期や水準を探る材料として、重視されています。

2021年は18人全員が0%(0~0.25%)に打っています、なので今回の金融政策に変更が無かったのは当然と言えます。

2022年では、0%に11人、0.25%に5人(0.25~0.5%)、0.5%に2人(0.5~0.75%)で、過半数がゼロ金利維持は妥当と考えているので2022年の利上げは無いと読み取れます。

これが、今回2023年分は、0%に5人、0.25%に2人、0.5%に3人、0.75%に3人、1%に3人、1.5%に2人とかなり分かれています。

人数で過半数を取れる水準を考えると0.5%が妥当になります。

よって、ゼロ金利解除の時期は2023年で水準は0.5%という見方になる訳です。

ここは前回が2023年に0.25%妥当と読み取れる表だったので変化が話題になりました。

また、2023年以降の長期的に妥当であると考える金利水準についてもドットが打たれており、現段階では2%に1人、2.25%に4人、2.375%に1人、2.5%に8人、2.75%に1人、3%に2人です。

過半数は2.5%の水準になるので、FRBが現段階では政策金利を2023年の利上げ開始後は2.5%まで引き上げたいと考えている事が読み取れます。

0.25%幅で年2~3回利上げをとなると、2023年スタートで2026年から2027年位には達成されます。

仮に2.5%が達成されるとなると、米国の10年国債利回りは上昇するでしょう。

前回の利上げ局面のピークは2018年12月~2019年6月で、政策金利は2.25%(2.25~2.5%)でした。

当時米10年国債利回りは最終利上げ直前の2018年10月に3.261%、11月に3.25%を付けました。今回、予想通りに利上げできたとすると2026年頃には3~3.5%位になる可能性があると言えます。

現在の米10年国債利回りが1.4~1.8%程度の推移なので債券価格に下落のインパクトを与えます。

しかし、ここも注意が必要です。

パウエル議長はFOMC後の記者会見でこのドットチャートに関して「大きな塩粒みたいなものだ」と発言、あくまで参考意見に過ぎない事を強調しております。

また、FRBメンバーは18人ですが、決定権保有者は12人です、FRB理事7人とNY連銀総裁が常任で、4人が他連銀総裁の輪番制です、なので、18人の意見が全て反映されるわけではありません。

それに、前回の利上げ局面は、理想とする金利水準が3~3.5%程度とされている期間が長かったのですが、結局1%近く低い、2.25%で利上げ打ち止めになりました。

また、10年国債利回りも、2.25%に利上げを行う直前にピークを付け、その後は景気減速懸念もあり、大幅に低下、利下げに入った2019年の9月には1.6%程度まで低下しております。

ちょうど今と同等の水準です。

となると、インフレだ、金利上昇だ、と恐れて債券投資を一切やめてしまう様な極端な事をしてしまうと、シナリオ通りにならなかった時には未保有期間の利息収入を受け取れなかっただけの結果になってしまうリスクを抱えることになってしまいます。

未来は変わります、なのでやはり幅広く商品を保有するポートフォリオ運用がリスクは小さいです。

目先のニュースで一喜一憂し、その度に極端な投資に走るのでは無く、「長期保有、分散投資、適度なリバランス」を継続する方がリターンも安定し、資産を成長させる近道だと考えております。

経済イベント(抜粋)

6月15日 全米ホームビルダー協会(NAHB)住宅市場指数 結果 81(予想83、前月83)分岐点は50 

NAHBのチャック・フォーク会長が「6月はコストの高騰と、針葉樹製材を含む建材の入手状況悪化がセンチメントを押し下げた」と発表文で指摘しております。好調な水準ではありますが、高すぎる建築費用の影響が出ているようです。

6月15日 米NY連銀製造業景況指数6月分 結果17.4 (予想22.7、前月は24.3)

6月15日 5月米小売売上高(季節調整済み)米商務省発表 6202億ドル(前月比マイナス1.3%、前年同月比プラス28.1%)

2月以来3カ月ぶりのマイナスです。

3月に始まった政府の現金給付による消費押し上げ効果で3月、4月と過去最高を記録しましたが、ワクチン普及と経済再開の進捗で、消費がモノからサービスに変わりつつあると言われております。

内容を見てみると、建設資材・園芸用品店(マイナス5.9%)、自動車・同部品(マイナス3.7%)家具店、家電店等もマイナスとなりました。

一方で飲食店(プラス1.8%)、衣料品店(プラス3.0%)となり、外出する人が戻っている効果が現れつつある印象です。

6月16日 米5月住宅着工・建設許可件数 米商務省発表 結果:157.2万戸(季節調整済み、年率換算、前月比プラス3.6%、予想163万戸)

前年5月が新型コロナで建設ストップしている時期だったため、前年同月比ではプラス50.3%でした。

同時に発表の許可件数は168.1万戸(前月比マイナス3%)でした。

6月16日 米6月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 結果:30.7 (5月31.5)

水準自体は高水準ですが、新規受注が22.2と、年初来で最低を付けました。経済活動の再開を受けた需要の急増が一段落した可能性があり得ます。

一方、仕入れ価格は80.7と、1979年6月以来の高水準を記録しております。仮に今後需要の伸びのペースが鈍化すれば、価格上昇も一段落する可能性が出てきたと言えます。

6月17日 6月6日~12日分新規失業保険申請件数 米労働省発表  結果:41.2万件(前週比+3.7万件)、前週37.5万件に比べ8週ぶり増加

失業保険継続受給者数 結果:351.8万人(若干増、前回351.7万人)

前回指摘した給付金が求職を妨げる要因になっているとして失業給付の上乗せを打ち切る州が増えている話ですが、6月末までで打ち切る州が多いようです。

よって求職活動が活発になるとすると月末にかけてなので、今後の雇用者数の伸びとともに労働者の動きを注意してみていきたいと思います。

6月17日 日銀金融政策決定会合 結果:現状維持 

短期金利マイナス0.1%、長期金利0%程度の誘導目標継続

ETF(上場投資信託)年間約12兆円買い入れ目標継続

J-REIT(不動産投資信託)約1800億円買い入れ目標継続

CP等、社債等、2022年3月末までで合計で約20兆円の残高を上限に買い入れ継続

物価上昇率については現在は0%程度で、予想物価上昇率も横ばいで推移と発表です。

日銀は2%のインフレ目標継続、実現まで金融緩和を継続するとしております。

また、企業等の資金繰り支援の新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラムは期限を21年9月から22年3月末まで延長しました。

米国のFRBのFOMCに相当する我が国の金融政策決定会合ですが、ほとんど話題になりませんでした。特に変更点がなかった事と、2%のインフレ目標に対して現状の物価上昇率が0%で上がる兆候もないとなると、米国に比べて出口戦略を行う議論すらできない状況で、デフレ脱却はかなり難しく、日米金利差は今後も開いたままになりそうです。