2021年2月8日週間相場メモ

債券・金利

バイデン大統領が発表した1.9兆ドルの追加景気対策が議会で通過しても1兆ドル程度だろうとの当初の見通しからやや規模が上方修正される予想が増え、国債増発懸念から米長期金利が再び1.1%を超えました。しかし、FRBの緩和姿勢に変化は無く、利回りを求める投資資金需要は旺盛の為、米国ハイイールド社債、米銀優先株式預託証券、欧州銀CoCos債券等が投資対象の中心の投資方針に変更はありません。

今回はFRBの量的緩和策の中身と効果についてお伝えいたします。米FRBは量的緩和を実施中ですが、国債等の買い入れ対象資産の満期は基本的に10年未満が大半です。少し前のデータですが、日経新聞2020年11月26日の記事によると「11月中旬時点でFRBの保有米国債は4兆5840億ドルで償還期間が10年以上残る長期債は1兆ドル、1年未満の短期債は1兆ドル」とあります。

もちろん緩和効果は全ての年限に波及し、全ての国債利回り低下は実現しております。

しかし、10年未満の国債は直接コントロールできるのに対して10年以上の債券は間接的効果で、マーケットの力によって価格や利回りが動きやすい状態です。

現状私達はFRBの買い入れ対象期間に相当する満期までが10年未満の債券の中から条件の良い銘柄を保有する方が価格変動リスクが少ないと判断しております。

将来この方針に大きく影響を与えるのが「インフレ期待」「FRBの方針」です、将来のインフレ期待が膨らみ、金利上昇見通しが多いため今は超長期の債券は案内しにくいのですが、将来今と違いデフレ色が強まり、低金利時代になってしまう見通しが強まれば利回りを長期間固定できる超長期債は有利な投資対象になります。

また、超長期債の利回り上昇は住宅ローン金利に大きく影響します。

2020年12月25日のブルームバーグニュースによると米フレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)の12月24日の発表30年物固定金利(平均)は2.66%でデータが残る約50年で最低だそうです。これが米国の住宅市場の活況を支えています。日本人は住宅ローンがもはや0.3%台まで登場しているのでピンときませんが、米国は2000年頃は8%台、2007年頃も6%台、直近でも2018年は4%台で推移しており、今の2%台というのは米国人にとっては破格の金利で家を買う動きが活発化しています。今後米国超長期の国債利回りが上昇し、住宅ローン金利上昇を通じて米国の住宅市況に大きくマイナスの効果がでそうになると、FRBは買い入れ対象資産の年限の長期化を実施し、金利を抑える景気刺激策に出る可能性もあり得ます。そうなった場合は我々も方針を再検討する必要が出て参ります。

今後も米国のインフレ動向、FRBの動きを注視してまいります。

為替

米ドルは引き続き極端な円高は想定せず、今後の米国の景気回復、金利上昇が米ドルのサポート要因になると考えております。豪ドルは2/2にRBAの量的緩和策の追加がありましたが、堅調な鉄鉱石価格を背景に今後も底堅く推移すると見込んでおります。直近反発気味のトルコリラですが、ようやくインフレ抑制のため政策金利をインフレ率よりも高い水準に設定して堅調に推移しております。しかし、高い政策金利は景気悪化リスクを伴うため、悪化が現実となった場合政府と中央銀行の緊張が走るリスクは残ります。

円ドル相場は105円台半ばと円安傾向です、ワクチンの普及が始まり、企業決算発表も堅調な米国の国債利回り上昇がサポートとなっております。2020年の年初が108.64円、1月に110.28が最も円安で3月に101.23が最も円高でした、昨年のレンジ内の動きで穏やかに推移しております。

豪州は2月2日に中央銀行RBAの金融政策決定会合を実施し、11月から実施で4月に期限が切れる量的緩和策の延長を決めました。

具体的には毎週50億豪ドル、4月までに1000億豪ドル市場より国債、地方債を買い上げる枠を更に1000億豪ドル追加し、期間を9月まで延長しました、その他3年物国債の利回り誘導目標と政策金利はそれぞれ0.1%で据え置き、インフレ目標は2〜3%に対して昨年10〜12月期が1.2%と低迷中で、2024年までインフレ率が目標を超えるのは困難で緩和継続が必要、他国が緩和策を実施している中豪州のみが緩和策を止める事はないという判断を下しています。

金融緩和にRBAは積極的で、昨年3月のコロナショック時と今年1月末の中央銀行の資産規模を比較すると、米FRBが1.78倍、欧ECBが1.5倍、日銀1.21倍、豪RBAは1.85倍です。これは本来なら豪ドル安要因です、しかし、足下豪ドル相場は堅調で対円でも円安が進みました。

豪RBAは通貨高を抑制したい意向と思われますが、中国が公共事業に積極的で鉄鉱石輸入を拡大し、豪州が恩恵を受けており、結果豪ドル相場は上昇傾向です。

9月に緩和策の債券買い入れ枠上限に再び達しますが、状況に変化が少なければ再度延長すると見られます。

今後の豪ドル相場の材料は「RBAの緩和策の動向」「中国の政策」が大きいとみています。豪州は日米欧と違い、国債マーケットが小さく、緩和策を他国に比べると継続しにくい環境にあります。早くても9月期限なので今は材料になりませんが、数年で見ると、緩和策を他先進国に比べて早めに停止、RBAの思惑と違い、豪ドル高を招く可能性が残っています。

また、中国とは政治的に対立していて、ワイン、石炭、木材、牛肉、小麦等に中国は輸入制限を課してますが、鉄鉱石は公共事業拡大に必要なため積極的に購入していて、足下の豪ドル相場を支えています、これが変化すると豪ドルを動かす要因になります。今後も変化があればここでお伝えして参ります。

株式

米ゲームストップ株の乱高下は大きな影響を与えず、株価は上昇していますが過熱感に対する調整売りの警戒は継続した方が良い考えに変わりはありません。今年全体を通しては①ワクチン接種ペースの加速②米国中心に大型財政支出③企業や家計の余剰貯蓄の放出④世界の中央銀行(中国を除く)の緩和姿勢で株価は堅調に推移する見通しです。

テーマは5G、半導体、電気自動車、工場自動化等のFA関連等が大きいですが、ワクチン接種の広がりにより、旅行、外食、百貨店、鉄道、航空等の分野に物色が今後広がる考えも変わりません。時期は3月から5月にかけて本格化すると予想しています。

米国雇用統計の1月分は非農業部門雇用者数変化数は予想5万人に対して4.9万人と無難でした、しかし、完全雇用状態には1000万人近い失業者がおり、回復ペースが緩慢なため米FRBの緩和姿勢に変化は与えず、引き続き悪材料が金融緩和追加期待から相場を支える状態に変化はありません。

株価については、1年を通じては堅調、目先は過熱感警戒というスタンスです、米S &P500の銘柄で200日移動平均線を超えている銘柄が1月末で全体の84%に達しており、ここ25年で3番目に高い状態です、相場が良い時は比率が高止まりする傾向があり、6〜70%程度で推移することも多いのですが、やや短期的に過熱感があります。株価の調整によるか、株価はあまり下がらず移動平均線の追いつきによる調整かは様子を見たいところですが、いずれにせよ全体相場は高値警戒で良いと考えております。米国株の調整があれば世界株全体に影響が出るので新規買いは吟味した方が良いです。ただ、銘柄固有の業績や成長性で伸びる予想が出ている会社についてはケースバイケースで対応して良いと考えております。

その他

ゲームストップ株騒動が残したものについて記述いたします。

世間を騒がせたゲームストップ株ですが、1月29日に481.99ドルを付けた後に下落し、2月5日は63.77ドルで終え、一週間で87%の下落となりました。

騒動は終わり、相当数の投資家に損失が出ていると思われますが、全体相場には大きな影響を今のところ与えてません。しかし、政治的な影響と株式を見る上での教訓が残りました。

政治的には民主党の左派と一部共和党内に金融機関に対する規制を強化するべきという動きが出たことです。

アルバイトで家計を支えつつボストン大学を卒業し、2018年の選挙で史上最年少の下院議員となったオカシオ=コルテス議員がロビンフッドによる売買停止は個人投資家がヘッジファンド等に比べて不当に不利な立場に置かれているとTwitterで呟き、共和党のテッド・クルーズ議員が同調、民主党のエリザベス・ウォーレン議員は今回の騒動は米SEC(米国証券取引委員会)が適切な規制を金融機関やヘッジファンドに行ってないことが原因だと金融規制の強化を叫んでいます。

このコラムで前号を読まれた方は今回の騒動がヘッジファンドによる個人投資家いじめでもなければ、規制を強化すれば同様のことが今後消える訳でもないことはお分かりだと思います。

しかし、米国のこれらの議員達は「単純な個人投資家VS大手金融機関+ヘッジファンド」で頭が固まっており、経済合理性よりもイデオロギー重視の発言が今後強まる可能性を示唆しました。

これに対してイエレン次期財務長官は否定する発言を行い、民主党内も意見が割れています。発言の主は非主流派なので大きな影響がないですが、政権与党内で同調の動きが広がると増税議論が公共事業拡大よりも優先されるなど景気にマイナスの影響が出るので要注意です。

株式投資についての教訓という点ではやはり、短期間で中身の無い株式で利益を上げることは難しく、会社の業績、将来性を良く調べて長期保有の方針が良い事を再確認した事です。

ゲームストップ株は確かに数日で大きく上昇しました、しかし、数日で大きく下落し、今後赤字でオンライン化が遅れたゲーム販売チェーンの株を長期保有しても報われる可能性はとても低いと思われます。

企業の将来性を無視して価格の変化のみにお金を投じる行為はギャンブルであり、投資ではありません。下落時に心を支える企業の材料が全く無いです。

株式投資を全てギャンブルだと考える人がいますが、大きな間違いです。企業の将来性、業績が重要で売上と利益を伸ばしている会社だからこそ市場の評価が高まり、長期的に株価は上昇します。この点を踏まえていない投資家、証券会社の営業が多すぎるように思えます。ギャンブルを悪いと思いませんが、投資とギャンブルの違いを良く考えてお金の投じる金額や方針を決定する必要はあると思います。

我々は引き続き、個別で成長性のある企業を発掘し提案する投資を推進し、投資家を育成する立場であり続けたいと考えております。