2021年2月15日週間相場メモ

債券・金利

バイデン大統領は1.9兆ドルの経済対策に固執しており、10日にパウエルFRB議長が金融政策と財政政策のセットの対策が必要だと援護射撃を行い、米国上院も過半数の賛成で法案成立の可能性が高まったことで将来の国債増発懸念から米長期金利が1.2%を超えました。しかし、先週お伝えしたようにFRBの緩和姿勢に変化は無く、利回りを求める投資資金需要は旺盛で米国ハイイールド債の代表指数が史上初めて利回り4%を割り、価格は上昇中です。米国ハイイールド社債、米銀優先株式預託証券、欧州銀CoCos債券等が投資対象の中心の投資方針に変更はありません。

米上院で通常法案であれば時間切れで廃案に持ち込む「議事妨害」を防ぐためには100議席中60議席が必要とされていますが、米上院は5日に予算決議案を可決(下院では6日可決)、これにより、16日までに予算決議に基づく経済対策法案を策定、審議に入ることになりました。1.9兆ドルの経済対策は通常法案と違い、過半数で成立できる特例措置(財政調整措置)が適用されます。

現在米下院は民主党が過半数ですが、上院は50対50で均衡しており、ハリス副大統領が1票保有している状態です。

この財政調整措置により、民主党は共和党の支持が一切なくても経済対策を通過できるため、将来の国債増発懸念から国債金利は上昇しました。

また、30年国債がコロナ前の暴落以前の2020年2月以来の2%を回復しております、これは10年未満の短期の国債はFRBの行動で金利が抑えられてますが、数年先を見据えると景気の回復、インフレ率の上昇を懸念して超長期国債が売られていることを表しております。

もちろん、先週お伝えしたように超長期国債の動向は住宅ローンに大きな影響を与えるため、米国の住宅市場に悪影響が出てくるとFRBが緩和措置を強化する可能性がありますが、現在のところは放任のため利回りが上昇傾向です。よって債券投資で10年を超える期間の債券は引き続き避けるべきと考えます。

逆に動いているのがハイイールドを中心とした社債市場です。

こちらは将来の景気回復が発行会社の経営にプラスになる楽観的見通しと緩和マネーが国債や高格付社債の利回りでは満足できないため流れ込んでいます。

社債は利回りを高くするには満期までの期間を長くするか、格付けを下げるかが中心です。

現在米国債の利回りが超長期で上昇見通しが強いため、投資家は期間を長くするより、満期までの期間を10年未満に置いて社債の格付けを下げる行動に出ており、ハイイールド債市場は真ん中に位置します。

ハイイールド債の投資可能資産としては以前よりお話ししている、ETF「HYG」になります、並びに発行会社が大手金融機関でありながら、発行要件により格付けを低くして発行している米銀優先株式預託証券、欧銀CoCos債も投資候補として継続、この傾向は数年続く可能性があると考えております。

また、債券ではありませんが、債券利回りの低下から定期的なインカム収入を得にくくなっているため、今後米国の不動産REIT(ETFだとIYR)や日本のJ-REIT等不動産賃貸収入が得られる資産に資金が向かうことも十分考えられます。

為替

米ドルは引き続き極端な円高は想定せず、今後の米国の景気回復、金利上昇が米ドルのサポート要因になると考えております。また、資源価格全般が堅調なため豪ドルも円安傾向、英ポンドも上昇傾向です、積極的な金融緩和から米ドル安を予想するアナリストが多いですが、低いとは言え先進国で1番金利が高いのは米国なので極端な動きにはなりにくいと見ています。

株式

NYダウ、日経平均共に堅調です、1年を通して強気の見方は変わりありません。ただ、短期的な過熱感はとても強く、調整らしい調整が無いままの上昇は時には大幅な下落を引き起こす事もあり得ます。警戒を怠らないようにもしたいと考えております。

目先の好材料は①米国1.9兆ドル経済対策法案通過見通しの高まり②好調な企業決算③堅調推移する景気指標④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ。

懸念材料は①コロナ感染拡大が再び加速②米中緊張激化③米経済対策法案成立遅れ④短期的過熱感の解消の為の調整売り⑤民主党の増税政策や金融規制強化などが考えられます。今後もこれらのニュースが入り乱れながら出てきます、都度整理してお伝えして参ります。

先週の短期的話題としては大麻関連株が米国で一日で半値になる銘柄が出ております、また、米テスラがビットコインに15億ドルを投じたニュースが出てビットコインが急伸する話題がありました。今後の米国株に影響を与える可能性があるので後ほど解説いたします。

株式市場は日米ともに堅調です、米S&P500に組み込まれている企業の10−12月決算発表は順調で8日時点で500社中294社が終え、8割以上の企業が事前のアナリストの予想平均を上回る利益水準を発表しております。市場の時価増額の2割を占めるGAFAMが全て売上で前年同期比二桁の伸び率を示したことも安心感につながっております。

また、失業に関しても楽観的な見方が支配的です、米国がコロナ前の失業者の水準に戻るためには1000万人程度雇用が増加しないといけない非常に厳しい状況ですが、①雇用を増やすために米FRBが金融緩和を継続する②失業者は低所得者層が多いため経済全体には大きな影響を与えない③コロナ禍の影響が軽かった人々を中心に金融緩和、景気対策の恩恵を享受し、余剰資金がワクチン普及後に消費の回復に貢献する、結果景気は早期に回復するとの見通しになって現在の株高を支えています。

景気や政策に対する見方は楽観的過ぎる感じもありますが、これで良いと思います。

一方で現在の日米の株式市場が調整らしい調整無く株高が進んでいる事にはやや強めで警戒しています。

相場全体に影響が出てませんが、ゲームストップ株は短期間で1/8になり、数兆円規模の損失が個人投資家に出たと推定されます。

その他今週は直近急上昇していた大麻関連株も大幅に下落しています。その一つのティルレイ(TLRY)は2月1日に19ドル→10日64ドル→翌日11日に終値32ドルと1日で半値です、全米で大麻を解禁するのではという観測から買われました。

ゲームストップでも出たネット掲示板レディットで話題になっていた株ですが、突然死の様な動きを見せています。

この1銘柄だけで8日からの1週間で売買代金が300億ドル近くあり、いきなり上昇して1日で半値になると個人投資家(ギャンブルなので投資家と言いにくいですが)に数十億ドル(数千億円)規模の損失が出ている可能性があります。いくら米国が投資家の厚みがあるとはいえ立て続けに起こると投資余力の減少を招き、相場全体の活力が削がれる懸念があります。

足下良いニュースが多く、今後の相場見通しも決して悪くはありませんが、強気一辺倒ではなく警戒心を怠らない様にしないと急な変化で思わぬ損失を抱える可能性が有る事に注意をした方が良い局面に入ってきていると思われます。

その他

米テスラのビットコインを巡る騒動について解説いたします。今後米国株式市場で大きなリスクの一つになる可能性もある話題であると考えております。

まず、ビットコイン投資を巡る動きを整理します。

2020年12月20日にイーロン・マスク氏は「ビットコインは法定通貨並みにデタラメ」とツイート、これに対して内部留保でビットコインを保有している米マイクロストラテジーのCEOマイケル・セイラー氏から株主に恩恵を与えたいなら米ドルをビットコインに換えるべきと提案するツイートを受けとる(マイクロストラテジーは13億ドル保有中)

2021年1月29日 マスク氏がツイッターのプロフィール欄を#Bitcoinと編集し、ビットコインが5000ドル上昇(残念ながら現在はツイッター上で確認できませんでした)

2021年2月8日米証券取引委員会(SEC)にテスラが提出した書類にテスラ社が15億ドルビットコインを保有していることが判明、ビットコインが44,000ドルを付ける

これらの行為は今後株式市場で疑問視される可能性が有ると推測します。

理由は①本業投資ではないため株主の懸念が高まる可能性②ツイッターを利用した投資を煽るような姿勢に疑問符が付く可能性です。

①本業投資ではないため株主の懸念が高まる可能性ですが、テスラは自動車メーカーであり、運用会社ではありません。株主から見るといくらビットコインで利益をあげても本業の自動車の工場建設や新型車の開発に資金を回さないとなると資金の使い道について疑問を持ちます。

今後ビットコイン価格が下がる様な事があれば株主代表訴訟に発展するリスクすらあるとみた方が良い話です。時価総額が80兆円とトヨタの3倍近い企業となると社会の公器であり、株主からの資金を多く集めて運営されている以上本業以外の資金利用は嫌がられます。事実、ビットコインが5万ドル近くに上昇する一方でテスラ株は7日から8日にかけて870ドル程度だったのが週末には一時800ドル割れと下落してきています。

②ツイッターを利用した投資を煽るような姿勢に疑問符が付く可能性ですが、法に触れている訳では無いですが、自身の影響力を行使して恩恵を受けています。

ゲームストップ株をテスラは保有していませんでしたが、ビットコインは巨額に保有しています。

自分で買って煽るような動きは株式投資家から敬遠される態度と言えます。

今後ですが、テスラは株主からはビットコイン売却圧力を受け、ビットコイン価格が決算数字に影響を及ぼす状況になると思われます。

テスラはまだ生産台数50万台、年間の総売上高は315億3600万ドル、純利益は7億2100万ドルとまだ小さい企業で、15億ドルのビットコイン投資の損益は決算への影響が大きいです。(1月は3万ドルから3.6万ドルで推移しているため3.3万ドル程度がテスラの仕入れ価格と推定されます)

しかし、時価総額は80兆円と大きく、昨年11月16日のS &P組入発表時に400ドル程度の株価は現在800ドルを超えていて急伸した分が元に戻るだけで40兆円のマイナスのインパクトが株式市場に現れます。

今回のビットコイン投資は全米4位の時価総額のテスラ株が米株全体の波乱の芽になるリスクを抱え込んだと言えます。

ビットコイン投資が本業外の収益の為利益が出ても株価にプラスの効果は薄いとみられる一方で損失となった場合はしっかり株式の下落のマイナスの影響が出ると見られます。

テスラはマスク氏の思惑と違い、テスラ自身の成長とビットコインの上昇の2つの条件をクリアしないと上がりにくい株式になってしまったと言えます。