2021年3月15日週間相場メモ

債券・金利

米国債10年利回りが週末にかけて再び1.6%を超えてきました。

主な要因は①1.9兆米ドルの経済対策の成立、ここ1~2週間で給付金が全米の85%の家計に届き消費の回復が期待されていること②直近のインフレ率の上昇期待です。

ここに今回経済対策と別に大規模なインフラ投資も計画されています。

債券分野の投資対象は米国ハイイールド社債、米銀優先株式預託証券、欧州銀CoCos債券等が引き続き中心で変更ありません。

前号同様の動きになりました。米国10年債利回りは3月11日時点で1.48%程度に戻ったのですが、11日に1.9兆米ドルの追加経済対策にバイデン大統領が署名、改めて全米の消費を含む景気回復期待で週末は1.625%で終了しています。

今回の経済対策は新聞等でも報道されていますが、全米世帯の85%にあたる年収8万ドル未満の人々への現金給付です。

月間所得1.6兆米ドルの米国の25%にあたる4,000億米ドルを支給します、一人当たり1,400ドル(約15万円)になります。

その他失業者に対する週間300米ドルの加算を6か月延長し9月末までとしたり、子育て世代の税額控除も盛り込んでいます。

ワクチンの普及が始まり、全米の新型コロナ新規感染者数もピーク時の1/4の日々5万人程度となり、経済的に明るい予想が増えています。ここからですが、インフレ率自体は高めに出てくることが続くと予想されます。

2月の米国消費者物価指数(CPI)は1.7%とFRBの目標の2%にやや近づいています。

今後は2020年4月より数か月米国は新型コロナの対策のロックダウンの影響でCPIが落ち込んでおり、前年比の数字でインフレ率は出すため数字としては通常に戻るだけでもかなり高止まりするので今まで以上の高い数字が出てくると予想されます。

しかし、議論では必ず失業者の問題も併せて出てくるので多少高い数字が出ても持続的インフレになるかはまだ結論は出せません。

失業率が改善し、本格的な景気回復の影響が広がらないと持続的なインフレにならないと見ている人々も多いからです。

よって高いインフレ率を示す数字が出ては国債利回りが上昇し、落ち着くと下落する展開になるのではないかと思われます。

リスクとしてはやや異常に高いインフレ率を示す指標が発表され、短期的に金利が急騰する事です。

しかし、債券マーケットも二極化しており、国債に素直に連動する投資適格債や満期までの期間が10年を超える超長期債は下落傾向ですが、10年未満の債券が多く、企業の格付けが景気回復で格上げが期待できるハイイールド債は継続的に資金が流入すると見られます。昨年は景気悪化予想でBBBからBBへ(投資適格から投資不適格へ格下げ)の「フォーリン・エンジェル」が数多く見られましたが、これからは景気回復予想でBBからBBBへの「ライジング・スター」が増えると予想されます。倒産確率が下がる傾向であれば利回りが高い商品に資金が集まるのは自然な流れです。米国ムーディーズによると2020年12月に6.8%だったハイイールドマーケットのデフォルト率(債務不履行)は2022年2月には3.9%に低下する予想を出しています。

ハイイールドの世界は今や利回りを求めてB格よりC格への投資が物色され始めています。

市場全体の平均値で動くETFのHYGも今後良いのですが、より、物色対象を機動的に変える事ができる投資信託を通じた投資も検討してよい時期ではないかと考えます。

運用商品としては米国ハイイールド社債、米銀優先株式預託証券、欧州銀CoCos債券に変更はありません。

ただし、満期までの期間が長い社債は引き続き多少利回りが高くても見送るのが良いと考えます。バンク・オブ・アメリカのマイケル・ハートネット氏は40年にわたる債券の強気相場は終了したとレポートで記述しています。

また、ETFのiシェアーズ米国債20年超ETF(TLT)の価格の変化は大きく、昨年7月末171とピークを付けたのちに下落、12日終値が136と株式でも弱気相場入りを示す20%以上の下落率となりました。株式でなく、債券ETFで2割の下落はとても大きなことです。バンク・オブ・アメリカのデーターによると米国債の最も長い30年国債はこの影響が甚大でパフォーマンスがこの100年で4番目に低い状態とのことです。

逆張りの発想ならいいかもしれませんが、どちらに行くか見えてない以上今手を出すのは危険だと思われます。よって満期までの期間は10年程度までにしておいた方が良いでしょう。

為替

米国債の利回り上昇がサポートで為替は円安傾向です。3月9日は109.23円まで進みました。今後も極端な円高は想定せず、やや円安気味に推移すると見ています。

3月12日にはECBのラガルド総裁が市中金利の上昇を抑えるための債券購入プログラムの債券購入の加速を示唆しました。欧州のインフレ率予想は今後数年間1.5%を超えることは無いと予想しています。米国に比べて金利水準が低く推移することに変わりは無くユーロに対しても、米ドル優位が続きそうです。

株式

将来の株価に強気なことに変更はありませんが引き続き米国長期金利の動きは相場かく乱要因です。

週末の米国債利回りは1.625%と再び1.6%を超えて終りました。

ただ、前週は週初1.577%が11日に1.48%へ低下、最終日の12日に一気に1.6%を超える展開だったので株価は上昇しました、最終日は金利上昇の影響を受けて下落しましたが、寄付より終値は上昇しており、下落幅としては小さい一日でした。

今後予想外に1.7%を超えてくると再度相場に影響を与えそうですが、1.4~1.6%程度の推移であれば時間が経てば投資家が慣れてきて相場への影響度は徐々に薄らぐと思われます。

懸念材料は4月以降のインフレ指標で、昨年比較でとても大きな伸びを示す数字が出ると国債金利が短期的に大きく上昇し、株価に影響が出る事です。ただ、そのような局面は悲観しすぎずに追加購入を狙う気持ちで良いと思います。

目先の好材料①米国1.9兆米ドル追加景気対策成立→インフラ整備を柱とする追加景気対策の発表、成立②好調な企業決算③堅調推移する景気指標④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ。

懸念材料は①コロナ感染拡大が再び加速②米中緊張激化③米経済対策法案成立遅れ④短期的過熱感の解消の為の調整売り⑤民主党の増税政策や金融規制強化⑥米国長期金利の急騰です。

好材料①米国1.9兆米ドル追加景気対策成立→インフラ整備を柱とする追加景気対策の発表ですが、米国は上下両院で可決されることが成立の条件です、上院は法案の議事妨害が認められており、妨害を継続して時間切れで廃案に持ち込むことが可能です。これを防ぐには通常6割の賛成が必要になります。

これに対して民主党は財政調整措置を適用しました。これを使うと議事妨害が出来ず、審議時間も上限が20時間に制限され、過半数でも法案は成立します。

今回の景気対策は所得8万ドル未満の国民1人当たりに1400米ドルの支給や子育て世代の減税などお金を配ることが柱です。

給付金が入ると余裕のある人は株式投資に資金を回すと言われています。給付金なのでやや投機的な株式に流れると見られます。

追加景気対策ですが、次は最大4兆ドル規模のインフラ投資と言われています。

上下両院で可決しないといけませんが、ハードルは今回の1.9兆米ドルの対策より高く増税策とセットで発表され、再び財政調整措置を使うように行動するとみています。

米国NASDAQ市場が2月12日高値14,095ポイントを付けてからやや調整気味に推移していますが、今年はNASDAQを中心とした成長企業の株価が伸び悩み、景気敏感株(バリュー株)の上昇が目立ちます。例えば石油関連(エクソン・モービルやシェブロン等)、金融機関(ゴールドマンサックス等)、その他以前売り込まれていたキャタピラーやボーイング等も回復基調です。

昨年はインターネットを中心としたグロース株に大きく資金が集中してきましたが、高値警戒感がある事や決算を見ても高い数字で成長する事が投資家の間であたりまえになり、多少良い決算では満足できず株価が伸び悩む銘柄が増えてきています。

直近印象的だったのが電子署名のドキュサイン(DOCU)の11-1月期決算(第4四半期)です、売上高や一株利益等全てアナリスト予想を上回る好決算にも関わらず、13日発表日の株価は7%近く下落しました。

売上高は前年同期比56%成長と驚異的な数字で、第1四半期の予想売上高は4.32~4.36億ドル(事前予想4.19億ドル)、2022年売上高は19.63~19.73億ドル(事前予想14.6億ドル)と文句ない数字なのですが、もっと望まれているようです。

一方でバリュー株はコロナ禍で業績が落ち込んでいた企業が多い為一部乗り換える動きが出ているようです。

今後ですが、金利上昇下では将来の成長を期待して高い株価がついているグロース株(成長株)は厳しい株価の動きになり、今期赤字から脱却できそうなバリュー株(伝統的企業が多い割安株)は伸びると言われています。

しかし、バリュー株も赤字から黒字になる時は回復期待で大きく伸びますが黒字になった後は一株利益が計算できるようになるので利益水準が低ければ高いPERになってしまい、割高感が目立ちます。その後利益成長が鈍いとなるとやはり株価は低迷するでしょう。

どちらかと言うと今成長が続いていて、金利上昇懸念から大幅に下落をした成長株を丁寧に下落局面で買い付けることや、バリューと言われている株式でも利益成長が見込める企業に投資を行う方が良い様に思えます。やはり決算分析が重要になってきます。

その他

米国の上院の財政調整措置についてコメントします。

今回、米国で成立した追加経済対策で利用された財政調整措置ですが、余り聞きなれない用語だったので調べました。

米国の上院は議事妨害が認められており、時間切れで廃案に持ち込めます。議事妨害とは昔は延々と演説を行い、審議時間を稼ぐ戦術です。過去には1人で24時間以上演説を行った議員もいた様です。今は議事妨害を宣言して議場内にいれば良いので演説をしなくても良いようです。議員の持ち時間は日本と違い無制限です。

これを停止し、法案を成立させるには通常6割の賛成が必要とされておりますが、回避できるのが財政調整措置です。

適用されると審議時間が20時間、過半数での法案成立が可能になります。

ただ、財政調整措置を適用するには事前に予算決議案と財政調整法案を上下両院に通す必要があり、事前準備にかなりの時間を要す手続きでもあります。

本来の目的は財政赤字を削減する目的の法案は成立が厳しい事が予想されるためあらかじめ準備をして、審議時間を短くして成立も過半数で通す為の措置です。1974年に成立し、1980年に初適用で今までに20回程度使われているようで特に珍しい措置では無いようです。

近年は何らかの財政赤字を削減できそうな理由を付け加えて、事実上減税案を通すために使用されています。

今回の景気対策は国民1人当たりに1400ドルの支給や子育て世代の減税などお金を配ることが柱なので同様の使い方です。

株式のコメント欄の時に増税とセットで出すと4兆米ドル迄規模拡大しても財政調整措置が使えると民主党の一部が考えているのは増税が財政赤字削減策だからです。メインは公共事業による支出拡大なのですが、この措置を利用するためには少し増税が必要と言う訳です。

今回の1.9兆米ドルの経済対策は、資金を国民に配ると消費が拡大し、後に税収が拡大するとしたり、結果として貧困層に支払うフードスタンプ(食料費補助)の削減に繋がるためだとかなりこじつけてます。

ただ、次の大規模公共事業は規模や財政赤字拡大、増税までセットとなると民主党内の調整も大掛かりになると見られ、財政調整措置を最終利用するにしてもたどり着くまでが時間がかかりそうに思えます。