ずばぬけた結果の投資のプロだけが気づいていること    苦瓜達郎 幻冬舎新書

著者紹介

苦瓜達郎さん 大和住銀投信投資顧問のシニア・ファンドマネージャー 1990年東京大学卒業、2003年以降中小型ファンドの運用にかかわる 2012年から2017年の6年連続で「R&Iファンド大賞」「国内中小型部門」で「最優秀、優秀ファンド賞」受賞。

2017年10月に書かれている本です。

目次

はじめに

  • 第1章 株式市場とは何物なのか
  • 第2章 誰にも開陳したことがない私の投資哲学
  • 第3章 「すごい会社」はこうして見つける
  • 第4章 中堅企業はこんなにおもしろい
  • 第5章 「苦瓜式」銘柄・情報整理術
  • おわりに        となっています

まず、全体を読んだ印象としては「さすがファンドマネージャー」と感じました。

株式市場と20年近く運用の世界で株式と対話しながら生きてきた人の書いた本であってもはや株式を人間の様に扱っているような印象です。

例えば 株式市場は経営者にとっても株主にとっても「横暴な上司」 と書いていたりと、もはや株式は人間です。 その他では、株式市場は「下品で間違いだらけ」「行き過ぎた株価上昇」を抑える装置はない。   と、株価自体は常に会社の状態と違う状況にあるのが普通なんだという考え方に立ってみていることを示しています。 

しかし、 「株式市場は人間の「業」を映し出すもの、否定すべきものではない」とし、 「企業が得た利益を分配する装置」「間違いを犯しても修正される引力を持つ」 「リーマンショックのような株価が暴落する局面を恐れても仕方ない、長い目でみればいずれ戻るもの。」 とも書いてあり、株式が本当に好きで、とても信頼しているのが伝わってきます。

専門は中小型株で、「知名度がないだけ」「偏見から低い評価」な会社が多く、投資チャンスの宝庫だと書いてあります。

苦瓜さんは年間900回以上企業訪問を行うそうです。 これはとてもすごいことです。私も証券会社で営業ですが、900回も訪問してません、というか出来ないです。 毎日3-4件アポイントが入らないといけないし、まとめないといけないのでかかりっきりでないと厳しいです。 それに、会社の経営者やIR担当も忙しいので一人だけに時間を割くわけにはいきません。 苦瓜さんが投資先企業からとても信頼されているからこそできることなんだろうと感じます。

投資スタイルは非常にシンプルで、企業価値を算出してひたすら長期投資を前提にしています。

  • 「5年でも10年でも持ち続けられる信念をもって銘柄を選び、保有できるか」
  • 「売買タイミングは一切考えない。」
  • 「株価がさらに大きく下がらなければよい。いずれ適正な株価に戻ったら売る。いつ株価が戻るかも、株価上昇の理由も問わない。」

と書いてあり、ちょっと乱暴じゃないの?なんて感じましたが、全体を読むと納得できたのが以下の文章で、

  • 「割安株投資であっても買ってすぐに戻る場合がおかしい」
  • 「いつ来るかわからない株価上昇を待って、ひたすら我慢する」という投資スタイルが良い。

とあり、確かに自分が見つけた!と思っても世の中のタイミングが今からくるわけもなく、どうしても株式投資を行うと自分が一番世界でえらい気持ちになってしまってすぐに成果を求めて株価ばかり追いかけてしまいますが、それこそ傲慢というものなのでしょう。

苦瓜さんが投資で考えるのは「いつ」ではなく「いくら」か で、投資対象銘柄を出し、自分の適正株価を出し、乖離率の高い順に購入するやり方です。 尺度として出てくるのがPER(1株当たりの利益の何倍まで株価が買われているかの倍率を示す指標)とPBR(1株当たりの資産に対して株価がどの程度の水準になるかを示す指標)ですが、PERを重視して投資しているようです。

これには賛否あると思います。なぜならPERは役に立たないという人が存在するのも事実です。PERは今期の予想値を使って株価を想定しているようです。

ただ、この尺度の利用も柔軟で、買ってよい水準の明確な定義は株式市場に存在はしないと前置きを書いたうえで、「高成長企業でない物の、伸びしろはあり、さほど大きなリスクがない安定成長銘柄」の場合15倍くらいなら買って良い。 としてます。 また、伸びしろがない企業は10倍程度、高成長企業の場合は50倍程度まで基準を広げるそうですが、それ以上となると見送るそうです。

また、とても参考になった意見が

  • 「過去のPERは判断材料に入れない」
  • 「業績予想も1年程度先までしか考えない」

という所で、企業は変化するし、株価も間違い続けていると考えており、将来もすべて予想できると考えてはいません。 やはり、企業の状態を企業訪問などを活用して常にチェックしながら株式に向き合っているようです。

また、投信会社のファンドマネジャーなのに良いのか?と思ったのが、テーマ型ファンドが世間では流行ってますが、苦瓜さんは懐疑的です。 物事を単純化して理解につながってしまうため大切なところを見逃してしまうリスクがあると考えており、やはり、一つ一つの企業をよく見て投資を行うのが基本スタンスだそうです。 株式の高値追いはしない主義のようです。 理由は、既に高成長を期待している株は上昇しており、それを買いに行くのは「自分が一番で、更に自分より馬鹿な投資家がいる」前提に立っていると考えるからです。

その他本書の中では企業訪問を行った際にヒアリングする項目やまとめたノートの内容が紹介されていて自分で株式をチェックする際にも見方を参考にすると役に立つと感じました。

参考書はやはり「会社四季報」です。もちろんその他の情報媒体も参考にして投資をなさってます。 最後に注意点としては

  • ①どんな情報も知り尽くすことはできない
  • ②ある程度楽天的に取り組まないといけない
  • ③常に自分は正しいはずだと思い込むタイプの人は損をしやすい
  • ④迷ったら買わないことも必要
  • ⑤人の半歩後ろをついてゆく投資法は必ず負ける
  • ⑥株式投資に神話はない
  • ⑦「気絶投資法」ができる人が一番強い

と、この世界にずっといる方だからこそ感じるやってはいけないポイントが書かれてました。

全体の感想

投資として参考になる考え方は多々ありましたが、PERの活用法は数字面で参考になりました。

  • ①15倍程度であれば買ってよい。
  • ②15倍というのは「高成長企業でない物の、伸びしろはあり、さほど大きなリスクがない安定成長銘柄」の場合の基準。
  • ③「あまり伸びしろはないものの、日本経済全体なりの業績をあげそうな銘柄」となると10倍程度。
  • ④「例外的な高成長企業」の場合は50倍で計算もする。ただこれは上限ギリギリ。
  • ⑤PERの目安は業種で変えない。
  • ⑦ 業績予想もせいぜい1年先程度までしか考えない
  • ⑧ある程度楽天的に取り組まないといけない。
  • ⑨常に自分は正しいはずだと思い込むタイプの人は損をしやすい。
  • ⑩ 迷ったら買わないことも必要。 これらの考え方も参考になります。

また、PERだけではなくて、本書には各企業を具体的にどうよいと思ったのかが詳細に書かれています。 ビジネスモデルや製品、経営者のこと、様々な角度から分析して、最後に価格の評価としてPERを活用しているわけで単にPERだけで投資を行ってはいません。

投資スタイルはバリュー投資だとご自身で書かれてます。 バリュー投資は私の印象だと、儲かる率は非常に高く、暴落リスクの少ない投資法と思います。

一方で評価されるまで時間がかかるので、なかなか上がらないケースも多く、じれったい気持ちになります。なので5年でも10年でも保有する気持ちで付き合わないと精神が持ちません。忍耐力を必要とされます。

本書は株式投資を行って保有する上での気持ちを支えてくれる本だと思いました。 困った時に読み返して、「そうだったよな、株価っていつも間違えてるんだよな」とか、「買ってすぐに上がるのを期待してやきもきするのが間違いだよな、元々どんなストーリーで購入したんだっけ」とか原点に返るときに読むとすっと入ると思います。

最後に私見ですが、投資信託について書いておくと、 日本の投資信託は私に言わせると90%以上は不要だと思います。 入り口手数料が高いし、信託報酬も高い、その割に運用成績がTOPIXやS&P500に負けているものばかりです。 ETFやネットで買える低コストインデックスファンドが良いケースがほとんどです。

しかし、ごく一部ですが、この苦瓜さんのようなある意味株式のマニアが運用する投信だけは生き残るような気がします。 販売会社もテーマとかないので販売しにくいため残高が大きくなることもあまりないのですが、一本筋が通ったやり方で運用をしている人は参考になります

金融機関に勤めている私からすると、花形ファンドマネジャーは大型株運用で1兆円とかの資金を集めるファンドを運用するような人じゃないかなと思われます。 小型株専門でテーマ型投資が嫌いって結構会社の方針と違う人なんじゃないかなと推察しました。

でもそんな人こそこれからのAIの時代になっても必要とされるファンドマネジャーなんだろうと感じた書籍でした。 もし、自分で選んで株を買うのでなければ苦瓜さんの運用するファンドは数少ないアクティブファンドの候補にしてよいだろうと思います。

※このブログでは全体の一部しか紹介出来てません。私の感想もかなり入ってます。 もし、テーマや内容に興味を持たれたら本書を購入の上ご確認ください。