2021年5月24日週刊相場メモ

債券・金利

米国債10年利回りは膠着状態です。インフレ懸念を示す指標が出ると上昇し、FRB高官の鎮静化する発言が出ると下がることを繰り返しております。

17日の5月NY連銀製造業指数が強いことを受け1.65%程度まで上昇したものの、FRBのクラリダ副議長、アトランタ連銀のボステック総裁が緩和中止に否定的な発言をし、鎮静化。

19日の4月FOMCの議事要旨公表で今後緩和縮小に関する議論をどこかで始めないといけないと話されていた内容が公表され1.69%まで上昇。

しかし、週末にかけて再び下落し、1.62%と余り前週と変化のない状態に戻っております。

現在のインフレに関する議論は

  • 今のインフレ率上昇が一時的とみるか、持続的と見るか
  • 経済の回復に伴う良いインフレになるのか、金融緩和の副作用による物価だけ上がる悪いインフレになってしまうのか

を巡り、指標やFRB当局者の発言にその度都度インフレ派、否定派の綱引きが起こり、利回りが上下しております。

ここ数か月は昨年の反動が大きく出るため、高めのインフレ率が出続けますが、結論は出ないでしょう。引き続き神経質な展開が続きそうです。

また、FRB内もハト派、タカ派がいて、パウエル議長は緩和継続を言い続ける傍らで、様々な発言でマーケットを試して将来の緩和縮小と利上げに向けた地ならしを行うと見られます。

投資対象は米国ハイイールド社債、米銀優先株式預託証券、欧州銀CoCo債等が中心で変更ありません。

為替

米国10年債利回りの動きに連動して動いており、膠着状態です。

引き続き米国債利回りがサポート要因でやや円安気味に推移する見方に変更はありません。

5月12日、インドの2021年4月のCPI(消費者物価指数)の公表があり、昨年同月比+4.3%と3月の+5.5%から減速し、中央銀行(RBI)の目標上限6%を下回ることが続き始めました。

本来、インフレに苦しんできたインドにとって鎮静化は歓迎するべきものですが、コロナによって苦しむ経済の停滞の結果のインフレ率の減速なので余り良い状況ではありません。

よって次回の6月4日の会合ではインフレ率も落ち着いてきたため景気回復目的の利下げの可能性が出てきました。

株式にとって利下げは朗報ですが、為替相場にとってはインドルピー安の要因です、通貨としてのインドルピー投資は慎重に検討した方が良いと考えます。

株式

目先の好材料①バイデン政権の財政支出法案の成立②好調な企業決算③堅調推移する景気指標④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ

懸念材料は①コロナ感染拡大が再び加速②米中緊張激化③米経済対策法案成立遅れ④短期的過熱感の解消の為の調整売り⑤民主党の増税政策や金融規制強化⑥米国長期金利の急騰

これらに大きな変更はありません。

好材料の②に該当しますが、日本企業の決算が一通り出揃い、集計では今期の日本企業の増益率は20%を超える予想です。結果、日経平均のEPS(1株利益)は現在1900円~2000円程度の推移となっております。

よって株価をEPSで割ったPERが直近では14倍程度まで低下してきました。

この指標はここ5年程度で見ると平均14.2倍程度で推移しており、PERで考えると現在の日経平均は妥当な水準と言えます。

よって日経平均が今から大幅に崩れるリスクは小さいとみられます。

とは言え、足下はGDPのマイナス成長、緊急事態宣言の延長、ワクチン接種遅れ等悪材料が多く、上がるきっかけとなる新しい材料を待っている段階と考えております。

その他

最近多いインフレ懸念からグロース株が下落するという議論についてコメントします。

現在市場で言われている「インフレ懸念」とはFRBの目標2%を大きく上回り、景気安定よりもインフレ鎮静化を優先する急激な金融引き締めを実施する状態に追い込まれてしまうことを指します。

将来の事なので必ずそうならないとは言い切れませんが、今起こっているインフレは経済正常化によって元に戻る動きの結果で異常な状況ではありません。

経済回復で正常化するとモノの価格や賃金の上昇が起こる→インフレ懸念で金利上昇→経済悪化・株価下落と連想されていますが、これは経済が回復し正常化すると⇒経済が悪化して株価が下落すると言っている様な意見でやや矛盾しています。

また、グロース株が「金利上昇で株価下落」と決めつける見方もやや行き過ぎだと思います。

グロース株の定義は「将来事業が伸びて売上、利益の成長が見込める会社」です。

つまり、成熟した企業に比べると現在の売上や利益に既存の事業の貢献度が低く、将来の明るい見込み(期待)が株価を支えています。

株価下落の理屈は「将来の売上や利益の予想金額が同じままなら、インフレになると、将来手にするキャッシュの価値が下がってしまうので、結果として今の株価は下がる」です。

しかし、インフレで事業環境が良くなれば将来の売上や利益が加速する事も考えられるので一方的に株式を売る理由に本来はならないはずです。

結局は決算で事業計画をしっかりこなして期待に応える成長を続けているのか、事業見通しが明るいかを継続的に見ることが一番重要でマスコミなどの雰囲気に流されない事です。

また、FRBのテーパリング(緩和縮小)懸念ですが、これは昨年来の非常事態から金融システムを守るために行っていた政策を経済の正常化に伴い、通常の緩和状態に戻す動きです。

結果、事業内容が不透明な一部のSPAC銘柄や一時話題になったゲームストップ株等の様に事業の改善が厳しい会社迄株価が高騰するバブル状態が消えて、一時的な株式市場の動揺はあり得ますが、持続的に株価が伸び続けるにはいずれ通らないといけない道です。

この際に成長をしっかり続けている企業の株式まで一緒に狼狽して売るのは違うと思います。

経済イベント(抜粋)

5月17日米国    5月NY連銀製造業景気指数 結果:24.3(予想23.9)

新規受注が15年ぶりの水準を回復、出荷は13年9ヵ月ぶりの水準を回復です。

物価にも影響を与える仕入価格が2001年以降の過去最高をおよそ13年ぶりに更新、販売価格も2ヵ月連続で過去最高を更新で仕入れ、販売共に好調です。

入荷遅滞がおよそ3年ぶりに過去最高を更新しており、需要に対し、生産が追い付かない状況が続いているようです。

5月18日 日本 1-3月期実質GDP1次速報値

内閣府発表 結果:前期比マイナス1.3%、年率換算でマイナス5.1%(予想マイナス4.6%)、3四半期ぶりのマイナス成長で2020年度通期はマイナス4.6%と2008年のリーマン時のマイナス3.6%を超えて戦後最悪の数字です。緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置等、経済を止める政策が小出しに繰り返された影響が大きく、GDPの半分を占める個人消費が前期比マイナス1.4%、また、政府支出もマイナス1.8%、公共投資もマイナス1.1%と非常時に政府支出や公共事業が支えにならなければプラスになるはずもありません。

ワクチンの接種の遅れ、米国に比べて小出しの経済対策となると伸びるはずは無く、緊急事態宣言延長の4~6月期もマイナス成長になりそうで米国や中国との差が目立ちます。

5月17 日 米国5月住宅市場指数

全米ホームビルダー協会(NAHB)発表 結果:83(前月比変わらず、予想83)

5月18日 米国 4月住宅着工・建設許可件数

結果:4月の米住宅着工件数は前月比-9.5%の156万9千件(季節調整済み、年率換算、予想170万4千件)

2ヵ月ぶりに減少です。3月分が2006年7月以来の高水準で173万3千件(速報値は173万9千)だった反動とみられます。

先行指標となる住宅建設許可件数は同+0.3%の176万件(予想177万件)となっております。

引き続き住宅の需要は旺盛なのですが、建築資材が上昇した結果住宅価格も上昇しており、開発や購入を見送る事例も出ている様でこれは懸念材料です。

5月20日 米国 5月9日~15日分 新規失業保険申請件数

結果:44万4000件(前週比3万4000件減、予想45万件)、前週分は速報の47万8000件(速報値47万3000件)に修正。

5月20日 フィラデルフィア連銀製造業景気指数

結果:31.5(予想は41.5)前月は50.2。48年ぶりの高水準をつけた前の月から18.7ポイント低下。(0が景況判断の分岐点)

5月21日 米国 5月マークイットPMI

IHSマークイット発表 結果:速報値米国68.1 過去最高値を更新 

4月は63.5で4.6ポイント上昇。

サービス部門のPMIが4月は64.7だったのが5月は70.1に上昇で過去最高更新です。

製造業も61.5と過去最高で、4月の60.5から1ポイント上昇です。

昨年の4月は36.1まで落ち込んでいました。

コロナワクチンの接種率が上昇して経済活動が本格化していることを裏付けています。

(この指標の好不調の分岐点は50です)

決算発表(抜粋)

5月17日 日本 リクルートHD 2021年3月期通期決算

 2兆2693億円(前年同期比マイナス5%)純利益1313億円(前年同期比マイナス27%)、国内の宿泊サイト等が打撃を受けた影響が大きかったです。ただし、2022年予想は売上2兆4500億円~6000億円、営業利益も1800億円~2450億円と大幅増加を見込んでおります。関連会社のインディードが米国の採用活発化の恩恵が大きく見込める上に国内の需要回復を見込んでおります。

5月18日 米国 ホームデポ2021年第1四半期決算 

売上375億ドル(前年同期比+32.7%、予想は336.8億ドル)、EPS3.86ドル(予想2.93ドル)経営陣は直近の給付金が3月と4月の売上高増に「恐らく」寄与したと考えられると説明しており、今年はやや成長が鈍化する可能性が有るとしております。

5月18日 米国 ウォルマート 2021年第1四半期(2~4月)決算 

売上1383億ドル(前年同期比+2.7%、予想は1315.3億ドル)EPS1.69ドル(予想1.21ドル)既存店売上高は昨年比+6%でしたが、ネット通販が+37%伸びました。20年11月~21年1月期の同分野は+69%成長だったので経済正常化の進展でネット分野の伸び悩みが起きています。

ただ、同社はオンライン医療、決済代行会社等多角化を進めておりますし、本業も食料品が今期はやや減速するものの、化粧品や美容用品が回復する等、全社ベースでの粗利率は24.7%と好調です。店舗型中心の小売業でアマゾンに対抗できる大型企業としての地位は健在です。

5月20日 中国 テンセント 2021年第1四半期決算 

売上高1353億元(前年同期比+25%、約216億5000万ドル、予想は1343.9億元)純利益は477.7億元(前年同期比+65%、74.2億ドル、予想は354.5億元)。

スマホ決済等の金融関連、ITサービスの売り上げが47%増加、ゲーム関連も17%増加と非常に好調です。

今後はアリババ同様、100億元程度の当局からの罰金が下されることや、金融関連に当局の規制が入る可能性が懸念されますが同社は以前より当局の指示に従う姿勢を繰り返し表明しております。

売上高の3割をゲームが占めますが、任天堂と提携してポケモンゲームも出す等今年は60以上の新作ゲームを投入します。

もはや売上高が年間で10兆円レベルの巨大企業ですが、今後も成長が続きそうです。