債券・金利
米国10年債利回りは週初1.56%でしたが、1.45%で終了しました。
マーケットは6月15-16日のFOMCを控えて動きにくい状態です。
インフレや金融緩和縮小、将来の金融引き締めに対する現在のマーケットの見方ですが、
FRBの一部要人が、テーパリングの議論を開始すべきと言って、緩和縮小を打ち出そうとしても、
「インフレ率高騰は一時的」、「2023年までは失業問題もあり、利上げができない」、「利上げを再開しても緩やか」等金融緩和状態が続くとする意見が支配的です。
よって多少のニュースでは利回りが上昇しにくくなってきました。
例えば、5月10日発表の5月の米国消費者物価指数(CPI)は総合指数が前年同月比でプラス5%と12年9か月ぶりの高い伸びで、発表直後こそ1.531%迄米国10年債利回りが上昇したものの、結局下落し、6月11日には1.432%を付けました。
高いインフレ率なのですが、5月と4月の比較はプラス0.6%で4月と3月の比較のプラス0.8%に比べると少し低い所が注目され、インフレが落ち着いてきている兆候と捉えて利回りの低下(債券は買われて価格が上昇)が起こりました。
少し無理がある理由の様にも感じますが、マーケットは足下のインフレは織り込み済みで、FRBも今のインフレに大きな動きは起こさないと見て安心しております。
15-16日のFOMCで新しい材料が出ない限り、暫く一定の幅の推移で留まりそうです。
もちろん、バイデン政権の巨額の財政出動の法案の行方や、ウッドショック等インフレ材料が消えた訳ではありません。
引き続き米銀優先株式預託証券や欧州銀COCOS、米国ハイイールド債券等で変更はありません。
ただ、価格の上昇に伴い、銘柄選別が一層重要になってきております。
為替
米国10年債利回りが低下傾向のため、円ドル為替も膠着状態です。
しかし、日本の金利も低く、引き続き米ドル優位に変化はありません。
新興国ではブラジルがここ最近連続して利上げを行っております。
ブラジル中銀のインフレ目標は2021年3.75%±1.5%、2022年3.5%±1.5%、2023年3.25%±1.5%ですが、直近はこのレンジ(2.25~5.25%)を上回って5.5%~6%程度のインフレ率です。
対策でブラジル中銀は今年3月と5月に各0.75%ポイントの利上げを実施し、政策金利は現在3.5%です。
更に次回6月の金融政策決定会合でも同じ幅の利上げが示唆されています。
ブラジル中銀が実施しているエコノミスト調査では、政策金利の市場予想は2021年末5.75%、2022年末6.5%が予想されております。
コロナ対策も効果が出にくかった中国シノバック製からファイザーやアストラゼネカ製へ切り替え始めました。
利上げの継続、インフレ鎮静化で投資資金がある程度戻り、コロナ禍からの脱却が進めば強気転換とまでは言えませんが、悩ましい通貨の下落局面がやっと一息つけそうです。
株式
日米共に膠着状態です。
企業決算は日米ともに良い事、米国10年債利回りが低下傾向であることは株式にとって好材料ですが、FOMCも控えており、様子見姿勢です。
投資資金に余裕を持ちながら決算が良い銘柄を丁寧に買付する時期だと考えます。
目先の好材料①バイデン政権の財政支出法案の成立②好調な企業決算③堅調推移する景気指標④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ
懸念材料は①コロナ感染拡大が再び加速②米中緊張激化③米経済対策法案成立遅れ④短期的過熱感の解消の為の調整売り⑤民主党の増税政策や金融規制強化⑥米国長期金利の急騰
これらに変化は無く、繰り返しこれらの材料が出たり消えたりする事を継続しながら企業業績の好調さとFRB、日銀、政府の政策の後押しで株価は堅調に推移すると見ております。
懸念材料の⑤民主党の増税政策や金融規制強化についてですが、2022年の米国の予算教書を見ると引き続きバイデン政権は増税にとても意欲的であることが伺えます。
2022年度の歳出は6兆111億ドルで2021年度の7兆2,495億ドル(過去最大)に比べると1兆2,384億ドル削減です。
しかし、2022年度予算には1兆9,800億ドルの追加経済対策が含まれており、通常時の2019年度の予算教書では4兆7,000億ドル程度の支出額であったことと比べると引き続き超大型予算継続です。
これをカバーするために法人税の21%から28%への引き上げや富裕層課税(株式売却益等)などを検討しております。
予算教書では、2022〜31年度の10年間の歳入が年平均で6.4%伸びることが見込まれております。
例えば2020年度に2,118億ドルだった法人税は、6,930億ドルまで増やす計画です。
歳入総額も2019年には3.6兆ドル程度だったのですが、2031年には6兆ドルを超える見通しを示しており、投資は大きく行うが、増税も大きく行う予定で、今後も増税に関するニュースが相場をかく乱する事もありえそうです。
その他
雇用についてのニュースは金利や株価に大きな影響を及ぼしておりますが断片的な情報が多く、今後論点になりそうなところを整理します。
ポイントは失業者総数、雇用者数の伸び、失業率、賃金伸び率、求人件数といった所です。
失業者総数
米国はアセットマネジメントONEの集計によると雇用統計発表時の5月29日時点で失業者総数931.6万人です。
コロナ禍のピーク時の昨年4月は2310.9万人でした。減少傾向が望ましいです。
雇用者数の伸び
毎月第一金曜日に発表され、一番話題になりやすい数字です。
5月の非農業部門雇用者数はプラス55.9万人です。
4月がプラス27.8万人なので変動はありますが、失業者931万人に対して毎月40-50万人雇用が増えれば2022年の終り頃には失業者問題は解消される見込みで、これが2023年利上げ再開の根拠の一つになっております。
この数字は増えすぎると景気過熱、金利上昇懸念でマイナス材料、少なすぎても景気悪化懸念からマイナス材料になります。
ほどほどにゆっくり伸びている状態が望ましいです。
失業率
失業率は5.8%ですが、計算の基となる失業者数も変動します。
失業者とは求職者で無職の人です。求職を諦めている人は非労働力として除かれます。
今後職探しを再開する人が出て、失業者総数が増える可能性もあります。
そうなると、雇用者数が伸びても失業者や失業率が増えてしまう事もありえます。
求人件数や賃金伸び率
米国の求人件数は高水準で、3月812.3万件、4月928.6万件で2000年12月以降で過去最高です。
しかし、労働者の求職活動が鈍いです。
2020年3月施行の「コロナウイルス支援・救済・経済保障法」に基づく失業給付制度拡充策が失業者の就業活動を鈍くしていると言われており、サービス業中心に賃金が急上昇してしまっております。
実際、労働省の米中小企業楽観度指数を見ると「求人が困難」と答えた比率を示す求人指数が1973年以降で最高です。
失業対策は主に3つで1つは失業保険給付額を週300米ドル上乗せする措置、2つ目は従来の公的失業保険の支給対象ではない労働者にも支給する失業給付制度(PUA)、3つ目は通常の給付期間が切れた失業者に対する延長給付制度(PEUC)です。
現在これらの合計受給者数は約1,526万件と、米国の就業者数約1億5,118万人の10%に相当します。
政府は期限を9月6日まで延長の方針です。しかし、米国のおよそ半数の州がこの期限前に打ち切る方針を発表したと報道されています。
労働者への過大な補助金が就業を阻害する要因だとして、州自治体の判断で国の補助金政策を途中で打ち切る事は日本では考えられない米国らしい政策です。
打ち切られるなら働くしかありません。
今後雇用者数がどの程度伸びるのか、給付金の減少で個人消費がどの程度減るのかにも注目が集まります。
雇用のニュースは上記の様に様々な要因が絡むので1つのニュースのみで全てを判断しないほうが良いと考えます。
経済イベント(抜粋)
6月8日 米国 4月貿易統計(通関ベース、季節調整済み)
米商務省 8日発表 モノの貿易赤字は857億2700万ドル(約9兆3千億円、前月比マイナス6.7%減)減少は4カ月ぶり。
新型コロナウイルスワクチンの普及による経済回復で、輸出が1.1%増の1448億ドルと過去最大になりました。
食料品や原油などがけん引役で中国向けはプラス8.6%。ワクチンの接種が進む欧州への輸出も伸びました。
6月9日 日本 5月の工作機械受注(速報値)日本工作機械工業会発表
前年比2.4倍の1233.28億円。前年比でのプラスは7か月連続。前月比ではマイナス0.5%。
内需は前年比プラス83.2%(前月比マイナス7.6%)の333.26億円。
外需は同2.7倍(前月比プラス2.4%)900.02億円。
6月10日 米国 5月米消費者物価指数(CPI)
米労働省 発表 結果:総合CPI前年同月比プラス5%、
前年比較でガソリンが56.2%上昇、中古車が29.7%上昇、食品は2.2%上昇等があり、2008年8月以来、12年9か月ぶりの高い伸びです。
食品とエネルギーを除くコアCPIは前年同月比でプラス3.8%です。
前月比比較でみると総合はプラス0.6%、コアはプラス0.7%です。
本来ならばインフレ材料として取り上げられそうな大幅な伸びですが、むしろ債券利回りの低下を招く材料になりました。
6月10日 米新規失業保険申請件数
5月30日~6月5日の週
先週分新規失業保険申請件数 結果:37.6万件(予想:37.0万件、前回:38.5万件)
失業保険継続受給者数:349.9万人(予想:366.5万人、前回:375.7万人)
それぞれ予想を下回りました、パンデミック前が20万件台だったことを考えると以前高水準ですが、今後失業給付の上乗せの打ち切りの影響で減少する可能性が有ります。
6月10日 欧州ECB定例理事会
主要政策金利のうち、市場介入金利(リファイナンス金利)0.00%、下限の中銀預金金利マイナス0.5%、上限の限界貸出金利0.25%、いずれも据え置きで、9会合連続据え置きです。
ECBラガルド総裁は「PEPPのテーパリングの議論はかなり時期尚早」、「財政刺激策を時期尚早に終わらせることはユーロ圏の景気回復を腰折れにする」と引き続き低金利政策と財政出動の重要性を訴えました。
EU域内のGDP経済成長率についてはこの1~3月期GDPは前期比マイナス0.3%でしたが、ラガルド総裁は、「4-6月期以降はワクチン接種の加速や経済再開により、回復に向かい、下期(7月以降)には景気は力強く上向く」と発言し、21年通期では成長率はプラス4.6%、22年プラス4.7%、23年プラス2.1%増と予想と強気です。
次回会合は7月22日です。