2021年4月12日週間相場メモ

債券・金利

米国債10年利回りは1.66%と落ち着いてきました。4月7日に発表となった3月のFOMC議事録が公開され、FRBの米国経済や金利政策、今後のインフレに対する見通しが明らかになり、引き続き金融緩和の長期化を示唆させるものであったためマーケットが反応しました。

米国債マーケットは以前からお伝えしている材料を改めて整理すると

①バイデン政権の財政支出に対する国債大量発行に対する警戒感②インフレ率上昇を示す指標の発表③FRBの発言、行動

これらで引き続き動いていくものと思われます。

引き続き1.5~2%のレンジで動くのが今年のメインになると考えております。

投資対象はコール迄の期間が10年を超えないレベルの米国ハイイールド社債、米銀優先株式預託証券、欧州銀CoCo債券等が中心に変更ありません。

アルケゴス問題で大きな損失を受けたクレディ・スイスはアルケゴス関連の損失が44億フラン(約5,200億円)で確定しました。

まだグリーンシル破綻の影響額が不明な事やリスク管理に対して甘いと指摘される材料は残っておりますが、峠は超えたと言えるでしょう。

景気指標の改善が続いております。4月1日に3月のISM(米サプライマネジメント協会)製造業指数が発表、好調不調の節目が50ですが、結果は64.7で予想の61.5を上回り、1983年以来の数字となりました。新規受注と生産については17年ぶりの良い数字が出ているとのことです。

また、ISM非製造業指数も発表になり、こちらも63.7と2月の55.3より大幅に改善、1997年の統計開始以来最高の数字となりました。

世界全体のGDPに関しても良い発表がありました。

4月6日にIMFが世界景気見通しを改訂しました。米国と中国を中心に今年と来年の世界のGDP成長率予想を上方修正し、2021年は1月段階では5.5%成長予想でしたが、6%へ、2022年も4.2%予想を4.4%へ変更しました。

背景にはコロナ禍発生からのこの1年間で世界で約16兆米ドル(約1,700兆円)の財政支出による景気下支えが大きいとしております。

ただ、このシナリオ達成に関して大きく影響を及ぼすのがコロナワクチンの接種状況であるともしています。

仮にワクチンの接種が今より大幅に加速した場合は2021年と2022年のGDP成長率が0.5~1%程度上振れし、ワクチンの接種が遅れていくようだと2021年、2022年の成長率は予想よりも1~1.5%程度下振れる可能性が残る別シナリオも併記されています。

3月のFOMCの議事録が4月7日に公開され、国債利回り低下に一役買いました。インフレ率の予想と失業率の予想が金利に影響を及ぼしております。

インフレ率の今年は昨年比較なので高い数字が出るのは一過性であるとし、2021年は2.4%予想、2022年は2%に減速し、2023年も2.1%と安定推移を見込んでおります。

このインフレ率のカギを握るのが人々の消費活動の活発化であり、消費を活発に行うためには失業の改善が必要です。これについては現在6%の失業率が2021年末には4.5%予想、2022年は3.9%、2023年が3.5%で2023年の数字まで低下すると利上げができる環境になり、2024年に利上げというのがメインのシナリオです。

しかし、完全雇用状態は4%レベルとされるのが米国で2022年にも4%を切りそうであるので2022年に利上げをしても良さそうでマーケットには利上げ時期が早まるのではないのかという懸念が常に残っております。

ただ、FRBは少し失業問題を表に出ている数字以上に深刻にとらえているようで、これがマーケットとの間に常に軋轢を生んでいる原因になっています。

この要因とは、長期失業者問題と人種間の失業率格差です。

長期失業者とは求職活動をあきらめた人々のことで失業率にはカウントしません、失業者はあくまで職を求める人の中で職が無い人でカウントします。

現在のアメリカの就業率は57.8%で昨年のコロナ前は61.8%で4%程度下がっています。よって表に出ている失業率は6%なのですが、今は職をあきらめているが、復活する可能性がある人々4%を加えると実質的な失業率は10%になります。これが4%を下回る状況にならないと本音は利上げをやりたくないという訳です。

また、人種間の失業率問題は職種によって異常に白人が多い職業があるなどですが、全体の数字には出にくい問題の為FRBが抱え込む事は無い様にも思えますが、社会不安の火種でもあるので注意が必要と考えているようです。

更に、インフレ率も今年後半からは安定すると見込んでいるので今は利上げの議論を行うのは時期尚早というスタンスです。これは継続しそうです。

投資商品は引き続き変化はありません、満期やコール迄の期間が10年程度以下の米銀優先株式預託証券、欧銀CoCo債やハイイールド債券です。

アルケゴス問題の詳細は株式の欄で説明いたします。

為替

引き続き米国債の利回りが上昇傾向であることがサポート要因です。米ドルが強い状況に変化はありません。今後も極端な円高は想定せず、やや円安気味に推移すると見ております。

4月7日公表のFOMC議事録の影響で米国債利回りが低下し、連動して為替もやや円高になりました。しかし、調整の域に過ぎないと考えており、方向感は変化ありません。

米国のFRBは金利が上がる事を警戒して色々発信しておりますが、他方、日銀やECBはいまだ緩和の手を緩められる状況ではありません。日本においてはコロナワクチンの接種状況が1%にも満たない状態で、蔓延防止措置を大都市でとっており、事実上以前の緊急事態宣言が続いている状態です。

また、ヨーロッパもアストラゼネカのワクチンに対して懸念の声が上がっている等回復が遅れており、米国のファイザー、バイオンテック連合とモデルナのワクチンが順調なのと対象的な状態です。

欧州は昨年ユーロ圏失業率が8.7%でしたが、現在も8.3%と低迷しており、ECBが金融緩和を止められる状態ではありません。その中では投資資金は日欧から米国へ流れるのが自然と言えます。

これは米国国債の金利を押し下げる要因であるとともにドル高要因とも言えます。

また、台湾海峡や香港、ウイグル問題と米中の緊張も高まっており、有事のドル買いの動きもあり得るので米ドル優位の状況は継続とみて良いでしょう。

株式

米国債利回りが落ち着きを見せていること、好調な米国の景気指標の発表があったこと、3月のFOMCの議事要旨の公表で改めてFRBの緩和姿勢が鮮明になったことによる安心感、アルケゴスキャピタルの巨額損失事件はクレディスイスの損失額が確定したこと等により不透明感が薄れたため堅調に推移しました。

目先の好材料①4月公表予定の追加経済対策を含むバイデン政権の財政支出法案の成立②好調な企業決算③堅調推移する景気指標④5G、ワクチン普及、自動車販売回復、工場自動化等の進展等のテーマ

懸念材料は①コロナ感染拡大が再び加速②米中緊張激化③米経済対策法案成立遅れ④短期的過熱感の解消の為の調整売り⑤民主党の増税政策や金融規制強化⑥米国長期金利の急騰

これらに大きな変更はありません。

日本は12日から65歳以上の方向けにコロナワクチンの接種が開始されます、世界と比較してコロナ感染者数はとても少ないのですが、ワクチンの接種比率が1%未満と非常に低いのは懸念材料です。オリンピック開催国としてもう少し早く進めてほしいものです。

また、相場で下落材料とはされていませんが、4月5日に米通商代表部(USTR)が6か国に対して関税強化の方針を打ち出しております。イエレン財務長官も国際的な最低法人税の導入を訴えるなどの懸念材料も出てきた週でした。

ただ、全体として一部に過熱感やバブルのフロスの様な現象があるものの株式市場を好転させる材料は多く、弱気になる必要は無いと考えております。

ISM製造業指数は1983年以来、ISM非製造業指数は97年の統計開始以来の最高の水準、IMFが2021年、2022年の世界の成長率見通しを上方修正、FOMC議事要旨公表で改めてFRBの金融緩和姿勢が明らかになったこと等により株式市場は好調に推移しました。

金利上昇により売り込まれていたIT系グロース銘柄も回復の兆しが見え始めています、GAFAMや表に掲載しているドキュサイン等も復調が見込めると見ています。

また、コロナワクチンの接種は米国ではバイデン大統領が4月中に全人口の過半数の2億回の接種を目標として打ち出しており、6月末までには接種は終りそうです。

となると、鉄道や空運等人々が動く事が商売になる銘柄の回復も見込めると思われます。米国のワクチンはファイザー、モデルナ連合のワクチンが中心でこちらにいまの所不具合は見つかっておりません。

アストラゼネカやジョンソン&ジョンソンのワクチン開発が政府からの補助金で開発され、アストラゼネカは無料で配布する事を公表しています。

それに対してファイザーは政府からの開発の補助金を拒否し、その代わりワクチンはきちんと商売として料金を取る事を決めています。

当初ファイザーは非難を受けましたが、結果として収益源とすることに成功しています。

アルケゴス問題は関係者で最大の損失を出したクレディスイスの結果がほぼ確定したので材料としては終わりました、一部の銘柄の下落で終了し相場全体に影響を及ぼすことはありませんでした。

4月6日公表データによるとクレディスイスは44億スイスフラン(約5200億円)の損失を出し、一株当たり0.28ユーロの配当を0.14ユーロに減配、自社株買いの停止、大半の損失を1-3月期に計上、リスク管理部門と投資銀行部門の責任者の交代、会長の150万スイスフラン(約1.8億円)の報酬返上、全役員の賞与停止の措置を打ち出しました。

5200億円はとても巨額ですが、本業自体は好調な為、この損失を入れても1-3月期は9億スイスフラン程度の赤字で済みそうです。

この程度であれば自己資本比率に大きな影響を出さず、CoCo債の配当にも影響は出ないでしょう。

別件でグリーンシル破綻の損失が未確定だったりするので手放しで全てを喜べる状態ではありませんが金融システム不安などを引き起こす可能性は無くなっています。

また、相場の悪材料にはされませんでしたが、米通商代表部(USTR)が豪、英、トルコ、イタリア、インド、スペインを対象として合計で10億米ドルの関税強化策を打ち出しております。

これは米国IT企業に対する課税(デジタルサービス税)に対する米国の報復措置です。加えてイエレン財務長官が国際的な法人税の最低税率を設定するべきと演説を行うなどグローバル企業に対する課税強化の動きは今後も続きそうです。

アルケゴス問題をきっかけに今後ファミリーオフィスが情報開示を強化されたり、融資している金融機関に対して監督が強化されて融資が今後しにくくなる事や、世界的な法人税強化の流れが出始めるなど相場に対してややマイナスの動きが今後活発になる可能性はあります。

しかし、継続される金融緩和や好調な企業業績を背景として今後も日・米共に株価は堅調に推移すると見ています。