生命保険会社の時価評価について

生保に資本積み増し促す 2019年7月5日 日経新聞

  1. 2025年をめどに、保有する契約の評価を簿価から時価に変える
  2. 特に10年以上といった長期の保険契約を結ぶ生命保険会社への影響が大きい
  3.  新たな規制が導入されれば、金利が下がると過去の契約を高い評価に見直すことになる。その支払いのために運用の見直しや資本の積み増しが必要だ。金利が上がる局面でも、保険の乗り換えなどの解約リスクが生じる恐れがある
  4. 将来的には、販売する保険商品の見直しにつながる可能性もある
  5. 新規制は世界の金融当局で構成する保険監督者国際機構(IAIS)が25年にも予定する国際ルールの見直しに歩調をあわせる

サラっと書いている記事ですが、かなり大きな記事だと思います。生保からすると、自己資本が今後大幅に不足する可能性が今より大幅に高まる可能性があるということですし、新規商品でリスクが取りにくくなり、商品設計に影響が出ます。

契約者からすると、安心だと思っていた保険会社の経営が不安定になり得ますし、既存の良い保険は生保にとって悪い保険なので解約を勧められるかもしれません。

まず、ストレスシナリオでは日経平均が13,000円程度か長期金利がマイナス0.4%程度か1ドル52円程度になると資本がリスク量より少なくなるとしていますが、マイナス金利の深掘りや景気悪化によってどれか1つくらいは実現する可能性がありえます。

あと、規制の大きな所は、今まで保険契約は保険会社にとっては将来の支払いにあたるので負債項目なのですが、これは日本では今まで契約時点の価格、つまり簿価で載せていて、経済環境が変わっても変えなくて良かったのですが、生保の資産は時価評価で変動させてました。

生保は預かったお金は主に運用に回していて、資産側なので時価評価をしていたのでアベノミクス以降は株が上昇、為替が円安、金利が低下、不動産も価値が上がる等、運用側の資産は増えてきた一方で負債に当たる支払い側の保険契約は簿価なので価格が動かずに保険会社の資本が増える現象が起こっていました。

この結果、保険会社の健全性を表すソルベンシーマージン比率比率は高くなり、格付も高く維持でき、高いソルベンシーマージン比率を基に更なる契約を拡大できた訳です。

これが今後の規制ではどちらも動くようになり、しっかりとヘッジしておかないとお互いの価格のズレによっては大幅に資本が不足するリスクが出てくるということになります。

また、保険は長期契約のものが多く、終身保険などは満期が見えない負債の様なもので金利が低下すると大幅に価値が上がりますし、価格が株価によって変動する保険なら株価が大幅に下落すると大きく時価は減ります。

もちろん、余裕を持って、資産側でもしっかりヘッジが出来ていれば大丈夫です。

規制導入は世界的な流れなので生保と金融庁だけでの問題ではなく、変えられない状況です。

と、なると、保険会社は資本を増資して積み増すか、既存の保険契約を価格が動きにくいモノに切り替えるか、新規の保険は期間が短かったり、保障内容を減らしたりとリスクが小さいモノに変えていかないと将来の市場価格の変動に耐えられなくなる訳です。

保険契約の構成を見直してリスクの少ない保険で固めようとすると顧客に対して魅力的な商品が減ることになりますし、かと言って保険契約に応じて資本をどこまでも増やすわけにも行きません。

契約者にとっては今後保険を契約する際には保険会社の体力も考えないといけなくなり、安易に一つの会社で沢山入ると、いざ保険が必要な時には保険会社が無くなっていたなどというリスクが高まっていることも考えないといけなくなります。

保険がただの一つの金融商品と同じになる訳です。

また、保険会社が過去の条件の良かった保険をなんだかんだといって解約、乗り換えを勧めてくる可能性もあります。現場の営業が会社の会計基準が変わった事まで知って営業するコトは少ないでしょうからもっともらしい理由で色々言うでしょうが安易に応じない事です。

今までは生命保険は相続の際に非課税枠があったり当局からも優遇されてきましたが、世界の流れには逆らえません。

保険を判断するのにも金融リテラシーが求められる時代になってきたということだと思います。