インドの自動車販売急減について③

思ったより調べると色々出てきたインドですが、改めてインドの販売減速の理由を再掲します。

  • 経済成長減速
  • 自動車ローンを扱う金融機関の貸し渋り
  • 車の保有者に義務づけられる自動車保険の負担増
  • 20年4月導入計画の排ガス規制前の買い控え
  • 燃料費高騰

今まで①では経済成長減速と金融機関の貸し渋りはリーマンショック後の銀行に対する不良債権の区分を厳格化し、不良債権処理、自己資本比率上昇を促す政策が様々な所に波及し、自動車ローンの半分のシェアを占めるノンバンク破綻の遠因になっていること、結果貸し渋りが起こって自動車販売減速、経済成長低下。

②では自動車購入時の車両保険の義務付け年数を1年から3年に伸ばして自動車購入時の費用が増えたこと、インパクトは日本人に例えると30〜50万円位のインパクトの可能性がある。

では、③ではガソリンなどの燃料事情や排ガス規制を見ていきます。

インドの燃料事情

インドは石油産出国ではありません、なので消費量の80%以上を輸入に頼っています。

インドで燃料価格高騰 2018年10月7日https://jp.globalvoices.org/2018/10/07/49419/

  • 2018年6月4日いくつかの州では、ガソリンはリットル当たり85インドルピー(以下INR、140円)、ディーゼルはリットル当たり74INR(122円)を記録
  • 日本円は当時の為替レート1インドルピー当たり1.65円を元に計算、概数を記載している
  • インドの石油価格は原油消費量上位10か国のうち、4番目に高い。インドは、原油需要の80%を海外から調達しており、第3位の石油輸入国である
  • インドは国内の燃料需要のうち、原油は86%、天然ガスは75%、LPGは95%をOPEC加盟国からの輸入に依存している
  • 石油価格には業者が設定した販売価格および手数料に加え、州が課す付加価値税と中央政府が課す物品税が含まれる。ニュースサイトのファーストポストによると、インドの中央政府は石油に19.5INR(32円)を、ディーゼルに15.3INR(25円)の物品税を課している

どうも、ガソリンでは無いですが、かなりインドは税金が高い様です、というか、インドのガソリンは意外と日本に近いぐらい高いですね。

原油そのものの価格推移です。

楽天証券より米WTI原油価格チャートです

最近のインドのガソリン価格推移です。

https://jp.tradingeconomics.com/india/gasoline-prices

ガソリン1リットルが1.03米ドルなので110円位です。2016年ごろは0.8ドル程度なので2割上昇してきています。こうやって考えると自動車の維持費はとてもインド人には高いと思います。

自動車がまだ1000人に20台位しか無いのも頷けます。

また、インドの燃料事情は輸入品である以上為替の影響を大きく受けます。以下は2018年10月15日の大和投信のレポートです。https://www.daiwa-am.co.jp/specialreport/market_letter/2018/report_timely_report_20181015_92499.pdf

この時は燃料に関する税金を引き下げたら政府税収が減るのを嫌気してインドルピーが下落して結果輸入品の燃料価格が上がるという悪循環が起こっています。

排ガス規制について

とても詳しく書いてあるレポートに出会いました。

2019年9月26日に発行の日本総研のレポートです。

自動車販売の不振が続くインド経済の行方https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=35087

このレポート、あとで紹介しますが、今回の私が調べたかったことがほとんど載ってます笑

まずは排ガス規制の箇所です。

  • 新しい排ガス規制導入が2020年から導入予定
  • 旧基準の自動車の販売、登録はいつまで続けるか未発表
  • 旧基準の自動車の使用についてもはっきりした政策対応がなされていない

と、明らかに自動車を購入する意欲がなくなるお役所仕事と言えます。

このレポートから追加的な問題点が書いてあったので書いておきます。

まず、本レポートによる販売の減速の原因は以下の通りです。

  1. 金融セクターの信用不安を背景とした、金融機関の貸出態度の厳格化や金利の高止まり
  2. 2020 年4月からの排ガス規制の厳格化に関連した買い控え
  3. 自動車保有コストの増加

金融面に関しては今までお伝えしてきた内容に近く、新しい内容は銀行などの貸出金利は審査が厳格化されている中高止まりしており、借りにくい状況が続いています。

政策金利が下がるのに金融機関の貸出金利は下がっていません、これは不良債権の処理コストを埋めるためだと考えられます。

とても新鮮な内容は自動車保有コストの上昇です。

自動車購入時の保険を四輪車は3年な事は前回お伝えしましたが、同時に保険料も引き上げられています。

また、車両登録料がかなり大幅に引き上がっています。2020年6月まで延期されてはいますが、今後実施されると更にマイナス要因になりそうです。

乗用車は日本円に直すと4400ルピーは1ルピーが本日1.5円なので6600円程度ですが、GDP1/20の国なので日本人から見ると13万円位の自動車登録料引き上げに相当するインパクトかもしれません。

商用車は9000ルピーなので13500円、20倍すると27万円です。

これは闇商用車が出るのではないでしょうか?と思ってしまう位のインパクトだと思います。

販売減速の要因まとめ

ここまでで3回のブログで書いてきたインドの自動車販売の大幅減速の要因を改めて肉付けして書きます。

  • 経済成長減速
  • 自動車ローンを扱う金融機関の貸し渋り

ここは銀行に対する不良債権処理圧力、ノンバンク破綻、その後の政府の対応遅れ及び金融機関の審査厳格化、貸出金利高止まり

  • 車の保有者に義務づけられる自動車保険の負担増

保険登録期間の延長で当初購入費用が大幅増、日本人にとっての30〜50万円位のインパクトか

  • 20年4月導入計画の排ガス規制前の買い控え

また、排ガス規制を導入するものの、いつまで今の自動車が使えるのか、旧基準の自動車を購入しても大丈夫か指針が無かった

  • 燃料費高騰

元々税金が高いせいもあり、ガソリン価格が高い上にルピー安も手伝って価格上昇、高止まりが続いている

  • まだ2020年6月まで大丈夫だが車両登録料の大幅引き上げ

これも日本人とインドのGDP比で見ると13〜27万円位のインパクトだと思います。

ここまでで見ると、そりゃ新車買わないよと思います。インドの基本的な車は安いと思いますが、日本で乗用車買うときに、いつまで乗れるかわからない今の車を購入するのは控えますし、買うときに保険代が3倍で3〜50万円高くなってしまうならとりあえず今の自動車を使えるうちはずっと使っていようとなります。

ただ、レポートでは一時的かもしれないけれど急激な需要が発生しそうな事も触れていました。

強制的に廃車

まだ本決定ではない様ですが、方向としては車齢15年以上のガソリン車、10年以上のディーゼル車を中心に廃車させる方向の様です。

となると一時的に新車の在庫が足りないか届くまで仕事や通勤、通学、買い物どうするのか?問題が出てきそうな気がします。

その他の景気刺激策

1番大きいのが法人税引き下げだと思います。自動車メーカーに下げた分を値引きに使ってもらって販売促進というのが狙いだと思います。

世界的な法人税減税競争状態ですが、インドも大いに参加しています。

今までを振り返ってのまとめ

インドの自動車販売の減速はここ1年程度続いていて、軒並み販売が減っています。

主な要因は①金融面②保険面③燃料面④廃車政策の不透明さ

が挙げられます。登録料引き上げは延期されたのでもしかするとここから政策が固まれば2020年6月までは大幅に回復するかもしれません。

ただいずれにせよ現在は国の対応の性急さが招いた消費不況と言えます。

ジェトロのホームページに販売の状況が掲載されています。

8月の自動車販売も深刻な状況が続く、業界はGST引き下げを再要求https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/09/33a340b820d165c0.html

ここには9月や10月がやや持ち直した記事もありますがまだ本格回復ではないです。

モディ政権はとても行動や考え方はマトモだと感じます。自動車政策で改善したいのが①環境②交通事故を減らす若しくは事故時の不幸を軽減するだと思われます

だからこそ、環境に悪い車を販売させない、使用させない、交通事故時の無保険を出来るだけ無くさせる為の政策で間違って無いです。

将来、後で振り返ってあの時の政策があったから良かったにはなると思います。ただ、一方で、金融機関に対する姿勢はやや厳しすぎる気もします、お金の流れを見誤っているかもしれません。

また、廃車政策がはっきりしない等国民感情を理解していない気もします。

綺麗すぎてついていきにくて足下消費不況なのだと思います。

インドの自動車の将来

最後に日本総研の将来予測を紹介します。とても明るいです。

まず、2030年には2018年440万台販売台数が1000万台レベルに伸びる予測を立てています。

今や世界最大の自動車マーケットは中国で2800万台、次いで米国の1800万台ですがインドは日本の500万台に次いで世界4位です。これが後10年で日本一つ分位伸びる予想です。

背景には所得増加があります。

まだ大半が4000ドル未満の世帯ですが、今後どんどん自動車を購入できる世帯が増えてきます。

所得と自動車には明確な関連性があります。

中国等とても綺麗に伸びています。

もちろん、自動車を購入できると言っても自動車を買う時の保険や燃料代等維持費がかります、また、道路などのインフラ整備も必要です、なので単純に所得が増えるから自動車だ!この予想通りだ!と言い切れないですが、今よりは遥かに伸びると考えて間違いないと思います。

ただ、良い方に考えると、インドで自動車販売が伸びると同時に伸びそうなものは以下の通りです。

  • 建設会社
  • 建設資材
  • ガソリン販売
  • 損害保険
  • 交通インフラ産業(信号等)
  • 鉄道

自動車は社会の大きなインフラです、普及すれば様々な産業が活性化します。鉄道も自動車が増えれば渋滞も増えるわけで改善しないといけません。

短期的リスクはモディ政権の綺麗すぎる性急な政策のマイナス面です、もしかすると消費不況からインド株が下落する局面も大いに考えられます。

ただ、その際は株式資産を徐々に積み増すタイミングかと思われます。