インフラ整備費問題②

2019年9月14日に書いたブログ「インフラ整備費問題」に内容が近いので②としました。

「老朽で危険」122橋、対策手つかず 本社調査 自治体負担重く2019年11月13日日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGKKZO52102170S9A111C1MM8000/

  • 少なくとも全国の122橋で修繕や撤去など恒久的な安全策の見通しが立っていないことが日本経済新聞の調査でわかった
  • 「緊急措置段階」は計409橋、多くは通行止め
  • 修繕や架け替えなど、恒久的な措置を行ったのは168橋。
  • 内訳は「修繕済み」が79橋、「架け替え済み」(57橋)、「撤去済み」は32橋
  • 恒久的な安全対策が現時点で定められない「未定」は59橋
  • 対応を決められない要因は財政難

以前ブログで取り上げたきっかけは千葉県で台風被害で山中の鉄塔が倒れて停電が大規模に起こった話がきっかけでした。次々に出てくるこの話ですが、全体はどうなっているのでしょうか。

まず、以前のブログでも、ここ30年間で費用が200兆円程度かかる国土交通省の試算を紹介しました。ただ、メンテナンスを随時行う前提で、全てを取り替えるとなると費用は300兆円近くかかる試算だったことも取り上げました。日経でも改めて費用について取り上げてます。

最新技術、課題はコスト インフラ老朽化契機に改修2019年11月13日日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGKKZO52098740S9A111C1TJ1000/

  • 国土交通省によると、建設後50年以上の道路や橋の割合は2018年の25%から33年に6割に高まる
  • 国交省は今後30年で必要になるインフラの更新費用が最大で194兆円に上ると推計
  • リコーは複数台のステレオカメラを搭載した一般車両を走らせ路面の状態を調査する技術を開発
  • カシオ計算機は時計「G-SHOCK」の技術を応用しセンサーを搭載したネジを開発。構造物のゆがみなど経年変化の情報をリアルタイムで解析できる。

新しい検査装置は次々とできてきているようですがお金がないのが悩みといった所です。

インフラの古さは?

橋・トンネル、早期修繕必要8万カ所 全国老朽化点検「5年以内に」2019年8月10日東京新聞https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201908/CK2019081002000152.html

東京新聞によると橋だけでなく、トンネルも道路関係も色々あるよとのことです、ただ、他にどんなものがあるでしょうか。

社会資本の老朽化の現状と将来 – インフラメンテナンス情報 国土交通省インフラメンテナンス情報https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html

こちらのホームページに国土交通省のインフラの状況がまとめられてます。

掲載全体

橋梁

  • 橋梁は1970〜1980年ごろ整備が多い
  • 国の管轄は5%、道路公社も3%、大部分が市町村はじめとする地方自治体管理
  • 2025年あたりから整備後50年を経過する橋梁が激増する
  • 建設年度不明が23万橋と全体の1/4で実は1番多い

河川

  • 1975年あたりから1990年ごろまでが多い
  • あと数年で老朽化が深刻化する状況ではない
  • ただ、10年後から50年を超えてくる河川設備が激増

砂防

  • 1976年から1992年が集中期
  • 最近の整備も多いので平均年齢は若いが、今後10年以降老朽化が問題化しそう

下水道

  • 1985年以降位から本格化していて比較的若い
  • 43万キロ整備、地球10周分以上

港湾

  • 1960年代から2000年ごろまで継続的に整備されてきている
  • 建設年度不明も9200
  • 今後10年後位から問題が本格化しそう

公営住宅

  • 1970年代に集中的に整備されている
  • ここ5年後位から50年超が激増

公園

  • 1975年あたりから激増
  • 国の管理はほとんどない

海岸

  • データが確認できない比率が高く1/4
  • 1961年から1990年頃まで高い水準
  • 今ぐらいから問題本格化か

空港

  • 1960年代から1980年頃まで多い
  • 地方空港は若い

航路標識

  • 割と多いのが1980年ごろから2000年
  • 比較的若い
  • 国が100%管理

官庁施設

  • 古い施設も多いが1990年以降の新しい施設も多い
  • 国が100%管理
  • 戦前の施設も非常に多い
  • 戦前、戦後の期間は極端に少ない
  • 最近は新調する施設は少ない

中間まとめ

ここまで12の分野を見てきました。まとめると以下の特徴があります。

  • 橋梁、河川、砂防、下水道、公営住宅、公園、海岸、空港の8つの分野は管理が都道府県や市町村、政令指定都市など地方自治体が主力
  • 国が主体なのが航路標識、官庁施設、空港の一部位と全体に占める割合が低い
  • 鉄道と港湾は民間管理が殆ど
  • 鉄道は100年を超えていたり古い設備が多いが大規模な事故がない事を考えるとメンテナンスが行き届いている可能性が高い
  • 国が管理している官庁施設や航路標識は比較的新しい
  • データそのものは平成25年頃のデータなので今は5年程度プラスする必要がある
  • 様々なインフラ整備が1970年代位から本格化しているので現在50年を超えている施設は少ないがここ5〜10年位から老朽化問題が本格化

です。

日本列島改造論

では、この1970年代に何があったかというと田中角栄氏の日本列島改造論ではないでしょうか。自民党総裁選挙前の1972年6月に政策綱領として発表されています。

私は1976年生まれで42歳ですが、思えばまだ幼稚園とか小学校入った頃は近所に砂利道はたくさんあって雨が降ると水たまりが沢山出来て靴がドロドロになったし、下水道が整備されていないトイレで、汲み取り車が来ると臭いが大変だった思い出がありました。

いつしかそんな事も無くなりましたが、この辺りから急速に建設ラッシュが始まったインフラを今迄主力で使っているという事です。

財政難はどの程度なのか?

では、先程新しい技術があっても財政面が苦しいとありましたが国の財政状態はどの様に変化しているでしょうか。

一般会計

財務省のホームページからです。

よく知られた話ですが国債の残高は増え続けています。平成元年161兆円は平成30年に874兆円と713兆円平成で増えました。

平成30年、財務省ホームページより 財政に関する資料

この結果一般会計は101兆円の歳出のうち23兆円が国債費に消えてます、次に大きいのが社会保障費で34兆円、地方財政を支える地方交付金が16兆円程度でこの辺りの費用は減らせないです。

公共事業は7兆円なので、メンテナンス費用が今後試算通りな場合財源は確かに厳しいかもしれません。

特別会計

平成30年 財務省特別会計ハンドブックより

また、もう1つの国家予算の特別会計ですが、純計額195.7兆円のうち大部分は一般会計同様に国債費、社会保障費、地方交付税交付金などで終わり、実際に色々活用されているのは財政投融資向けの財投債購入12兆円で、残りの僅か5.7兆円が活用されています。

平成30年財務省特別会計ハンドブックより

財政投融資

財政投融資については財務省のホームページに詳しく載ってます。https://www.mof.go.jp/filp/summary/what_is_filp/index.htm

財務省ホームページより

先ほどの12兆円もここに繰り入れられてます。

国の財政ですが、今は国債費や社会保障費で大部分が消えて、中々余裕は余り無い印象を受けます。

地方財政

平成31年の地方財政白書を見てみます。

http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/31data/index.html

全体の歳入は国の地方交付税交付金含め101兆円です。

ここでみると、福祉関連の民生費が1/4、教育費が17%、公債費があって次にやっと土木費約12兆円が出てきます。

となると、国の一般会計、特別会計、財政投融資、地方財政と重複する部分はあるのですが、大体毎年400兆円位のお金が回ってます。

ただ、その中で土木関連は20兆円あるかなぁ位です。

その中でここから30年間で老朽化した設備に毎年7〜10兆円要りますと言っても新設する設備も多い訳で予算が厳しいと思います。また、地方が管理している設備が多いため、より支出を増やす事は国の了解も必要なので厳しい様に思えます。

お金以外の問題は?

お金は厳しいのがわかりました。ではお金が解決したら他に問題は無いのでしょうか?

2019年11月13日日本経済新聞

最初に取り上げた橋梁の件で中々インフラメンテナンスが進まない理由で1番大きいのはお金に関する項目ですが、住民との合意形成や技術系の人手不足も上がっています。

なら、今の管理も大丈夫か?なんて思ってしまいます。

どうするといいか?

私見ですが、お金と人と合意形成ならば以下の様な考えもあり得ます。

  • 危険と判断される設備については管理を地方から国へ
  • 更新やメンテナンスの費用は国が建設国債で全額負担、例えば50年債等超長期国債発行
  • 危険と判断されるインフラ整備は住民の合意形成を待てないと判断した場合は国が強制力を持つ制度制定
  • 土木技術者の育成機関を拡大
  • 過疎地域のインフラを削る

が考えられます。実際に地方自治体の土木技術者養成機関はあります。

東京都建設局ホームページhttp://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/jigyo/tech/start/01-center/01index.html

いっそ就職を保証する代わりに土木技術者を養成する、土木技術大学校を国が設立してもいいと思います。自衛隊の防衛大学校同様に給与支払い付き位やってもいいし、確実に国や地方公務員になるならかなり需要がある様に思えます。

教育無償化とかができるならこれくらいできると思います。

何せ今後災害が起こった時に堤防が決壊したり、普段の生活で支障が出たり、最悪橋が落ちたりトンネルが崩落したら目も当てられません。

経済面では?

メンテナンス分野は大事な分野ですが、今までは余り注目されてきませんでした。

理由は

  1. 新規のインフラ整備より儲からない
  2. 国の整備計画も設備の新調に目線が中心だった

では無いかと思います。ただ、今後はかなり変わると思います。

大手ゼネコンや橋梁メーカー等今までインフラ建設に携わって来た企業は全て対象になりますし冒頭の記事にある様なリコーやカシオの様な機械メーカーも関わって来ます。

福祉で年金も大事ですが生活を維持するためのお金は惜しまないで欲しいし、今後数十年はインフラ整備の大規模な需要が産まれると思えば大きな経済再生の起爆剤の1つになり得ます。

今はオリンピック後の需要が減る話ばかりですが、考えを変えればオリンピックの経済効果と比較にならない毎年7〜10兆円で30年間にも渡るお金が巡り、設備が新しく生れ変る効果もあってとても良い事、大きなビジネスチャンスが来る!とも言えます。